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『いのちはなぜ大切なのか』 小澤竹俊著 (ちくまプリマー新書) 筑摩書房

いのちはなぜ大切なの?──この問いに答えはあるか? 子どもたちが自分や他人を傷つけないために、どんなケアが必要か? ホスピス医による真の「いのちの授業」。


ちくまプリマー新書はどちらかというと中学生くらいを対象に書かれたシリーズのようで、どれも文章は非常に平明です。
ですが、大人が読んでも十分読み応えのある、むしろ大人が読んで省みた方がいいのではないかと思うような重い(けれども本当は避けては通れない)テーマのものが多く、この本もそんな1冊になっております。

「いのち」。

非常に重いテーマです。

かつ、非常に不可解なテーマです。

最近ちょっと松井孝典さんブームが来たおかげで視点が巨視的になっているせいか、それとも『銀河ヒッチハイク・ガイド』(映画)を観たおかげか、「そもそもなんで、地球にだけ生き物がいるんだ???」という謎は深まるばかりです。

もっと言うと、なぜ、「いのちって何だ」と考えついてしまう生き物が存在するのか、ということでもあります。
この本の中で、「いのちのバトン」の話の危険性について書かれていますが、まさしく、「いのちのバトン(子孫を残す)」だけが生き物の目的なのであれば、何も知的生命体に進化する必要はないわけです。
逆に知的生命でない方が、「単に生き延びるだけ」であれば、生き延びる確率は高くなるのではないでしょうか。
とりあえず、ほかの仲間に迷惑かけないですし。
例えが悪いですが、借金苦で一家心中するライオンのファミリーなんて聞いたことがありませんし、むしゃくしゃしたから通り魔を働くカラスとか、酔っぱらい運転でひき逃げをしでかすサルとか、宗教的な意見が合わないからって高層ビルに突っ込むフラミンゴとかも寡聞にして存じません。
それに環境を破壊したり、うっかり何十回も地球上の生命を絶滅できるような武器を開発しちゃったりなんかして、ほかの種や、それどころか惑星ごと危機にさらすような真似ができるのはおそらく知的生命くらいでしょうから、それを思えばいっそ原生生物のままだった方が地球にとってはありがたい話だったでしょう。

なのに、「進化」しちゃったわけですよね。
それも「わたし」がここにいるのは、誰が何と言おうと、どう考えても、「ただの偶然」なわけですよ。
わたくしなんぞはこれだけで「すげー…」と開いた口がふさがらない感動を覚えることがあるのですが、この本のテーマはそういうことではありませんで。(大脱線)

著者は在宅ホスピス医として活躍しておられる方のようですが、やさしい言葉なのですが、実践から得た言葉の重みをひとつひとつ感じるようなそんな文章です。
「いのちの大切さ」などと言い出すと、何だかそれだけでうさんくささが拭えないような、そんな印象も正直なところあったのですが、読んでみると非常に誠実で公平、真摯な著者の方のお人柄がにじみ出るような良書でした。

わたしたちはあらゆる理不尽さ、あらゆる苦しみを、ひとりひとりが抱えて生きています。
それは著者が言うように、どんなに科学が発展し、医療技術が進んでも、人間が人間である以上は変わらないでしょう。
苦しみがなくなるのが一番良いことだけれども、苦しみそのものはなくならないかもしれない。
それでもわたしたちは生きて行かなくてはいけない。
だったら、できるだけ穏やかで心満ちた状態で幸せに生きられたらいい。
けれども、幸せがそうであるように、苦しみも非常に個別性の高いものである。
誰かにとっての幸せが誰かにとっても幸せであるとは限らないし、誰かにとっての苦しみが誰かにとっても苦しみであるとも限らない(だから理解されないことも当然あり得る)。
では、どうしたらいいのか。
そしていざ、死を迎えるときはどうすればいいのか。

そういうヒントがたくさんつまった本でした。

わたしはこの本を読んでいて、『ゲド戦記』3巻『さいはての島へ』を思い出しました。
ゲドが言います。
わたしたち人間はいつか死ぬ。
そしていつか死ぬということを知っているのは、わたしたち人間に与えられた最高の祝福であると。

答えは簡単に出ないと思います。この本の著者も安直に答えを決めつけることの危険性を指摘しておられますが、「答えが出ない状態を我慢できる」のが大人だ、と確か内田樹さんが書いてらしたと思いますが、確かに、「答えが出ない、あるいは二つ以上あるものに価値を置かない」タイプの人がいますね。内田樹さん風に言うと、そういう人は「子ども」ということになるのでしょう。

答えなんかないかもしれない。
でも、問い続けるということがきっと大切なんだろうと思います。
そして最後に笑って死ねたらいいですね。
「とうとう答えはわかんなかったけど、わたしの人生はこれで良かったんだ。うふふふふ。みんなありがとうね。」と。
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by n_umigame | 2007-10-06 18:04 | | Trackback | Comments(0)

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