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『そして誰もいなくなった』 アガサ・クリスティー著/青木久恵訳

(クリスティー・ジュニア・ミステリ1)早川書房

アガサ・クリスティー日本オフィシャル・サイトより---

クリスティー・ジュニア・ミステリ〉は、子供だましでない、本物のミステリを子どもたちに楽しんでもらうために企画されました。省略なしの完全訳、それも一線級のミステリ翻訳家が手がける最新訳で、ミステリの女王の代表作をお届けします。
読みやすい表現、大きな活字、すべての漢字に振り仮名をつけ、親しみやすいイラストも入りました。子どもが初めて出会うミステリに最適。
〈クリスティー・ジュニア・ミステリ〉を読んで、ミステリの楽しさに触れてください。


というわけで、読んでみました。

早川さんの出している本ですので、クリスティーの原作をそこなうようなものではもちろんありませんでした。そこはご安心ください。わたくしもまったく心配しておりませんでした。
が、ジュブナイルとして成功しているかどうかはちょっと疑問です。
また、「完全訳」という心がけはもちろん悪くはないのですが、なおさら、改めてジュブナイルとして発行された意図が、いまひとつわかりませんでした。

そのおおかたの原因は、「一線級のミステリ翻訳家が手がけ」たことにあるのではないかという気がします。
ここはやはり、ジュブナイルや児童書の翻訳を手がけている方に訳をお願いした方がよかったのではないかと読んでいて思いました。子どもに向けた語り口、言葉遣いというものがやはりあって、漢字にルビさえふれば子供向き、というものではないと思われます。
この文章が読める子どもであれば、もう十分クリスティーの一般向けの文庫が読めると思いますよ。(わたしも生まれて初めて一般向けの文庫を自分のお小遣いで買ったのは小学3年生でした。マーク・トゥエインでしたけれども(^^)。)

また、「省略なしの完全訳」とありましたが、原書にないのであろう部分が気になりました。(原書を読んでいないのでもし実はあったらおわびして訂正いたします)

例えば、p.50「イギリスの裁判では、犯罪を犯したとして訴えられた被告人が有罪か無罪かは、陪審員たちが話しあって決める。」という一文があり、こんな説明がましい文章あったかなあ…と違和感を覚えたため清水俊二訳を確かめたところ、ありませんでした。(p.38)
ほかにもわたくしが気がついた範囲で、もう一カ所こういう部分がありました。

省略はしてないけど、よけいなつけたしがあるんじゃん!(笑)

「完全訳」を謳ったのであれば、訳注でなく地の文によけいな文章を入れたことを、あとがきなどできちんと明示すべきではなかったのでしょうか。
「陪審員」って子どもにはわかんないよね、じゃあ親切に説明を入れてあげましょう、と思ったのだとしたら勘違いもはなはだしいのでは。大人だって陪審員って何か正確には知らない/わからない人はおおぜいいます。
こんなことをやりはじめたら訳者が恣意的に原文を増やしたり削ったりしても良いことになってしまいます。
もし子ども向けをうたうなら、「ばいしんいんって何?」と子どもが自分で好奇心を持って調べられるようなしかけを作った方が、よほど子どものためになるかと思われます。

あと、これは作品自体には関係がないのですが、あとがきにあげられている「名探偵」のチョイスがマニアックすぎませんか。ホームズはいいけど、なんでエラリイ・クイーンとネロ・ウルフが並ぶんだ。ハヤカワさんらしくて良いと言えば良いのですけれども、わたくしの回りにはエラリイ・クイーンが探偵の名前だって知らない人がごろごろいるし(作家名は有名だから「名前は聞いたことある」と言われますが)、ウルフに至ってはもっと知らないみたいですよ。一般の人はそんなものだと思われますがー(笑)。
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by n_umigame | 2008-01-05 18:40 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
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