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『貧乏するにも程がある 芸術とお金の"不幸"な関係』 長山靖生著(光文社新書)光文社

本書では、「下流化」につながると槍玉にあげられる「自分らしさ」という価値観に執着し、その価値観がもたらす幸と不幸、欺瞞と真実に、さまざまな文士の生き方を通じて肉薄する。
自分らしさを貫くために損をし、貧乏をしていた作家は数多いが、それでも彼らはどうにか生き延びた。どうすればそれが可能になったのか。その観点から見ると、作家たちは狡猾に生き残り戦術を駆使していたことが分かる。彼らの姿は私たちに、自分の生き方や社会のありかたを考える上で、大きな示唆を与えてくれるのではないだろうか。


ここで言われる「下流化」というのは、「下流社会(かりゅうしゃかい)とは、三浦展著のベストセラー『下流社会~新たな階層集団の出現』から生み出された造語。
「下流社会」とは、毎日の生活にも困窮する下層社会という意味ではない。単に「所得が低い」ということではなく、働きたい、学びたい、金持ちになりたいなどの「意欲やコミュニケーション能力が低い」人々、包括すれば「人生への意欲が低い」人々の構成する社会を指す。経済的な上昇志向が強いほど、コミュニケーション能力や生活の満足感も高いという(三浦がこの見解の根拠とした調査の妥当性については疑問の声も多い)。(Wikipediaより)」
ということで、三浦展さんの造語をもとにした概念を指して言っているようです。

実はわたくし、こういった「流行語大賞」になりそうな造語のもとになったベストセラーはほとんど読まないので詳しくは知らなかったので、以下、『下流社会』読者の感想などから得られた孫引きの知識で申し上げますが、「人生への意欲が低い」とされる人々は「自分らしさ」にこだわる傾向が強い、というのが三浦展さんの主張のようです。

そもそも「意欲やコミュニケーション能力が低い」人々をこれすなわち「人生への意欲が低い」と包括する時点でいかがなものかと思いますし、何と言いますか、「下流社会」などという言い方がなんとも言えず下品だなあとか、ほかにいろいろ感ずるところがございますが、長くなりますので機会があればこれについてはまた今度。

で、この本ですが、そのようなベストセラー&流行語に乗っかって売らんかなというビジネスマインドはわからんでもないのですが、中身は全然「下流社会」に関係なく(笑)、帯にもでかでかと「自分らしくあるための『借金生活』の極意」とあるので、怠け者のわたくしなどは「おお、そんな極意があるんなら教えてくれ、でも借金はしない方向で!」と思いましたが、そういう本ではありませんでした。

サブタイトルに「芸術とお金の~」とありますが、主に明治から昭和にかけての文学者(いわゆる純文学のみ)に焦点を当てて、彼らがいかにとほほで、自分勝手で、頑固で、けれどもどれほど愛すべき存在であったかを描きだしています。
読んでいてあまりのことに吹き出してしまうこともたびたびだったのですが、著者の結論としては「芸術で食えると思うな、しかしどーしてもやるんだったら飢え死にしない程度にね」という、そらまあそうでしょうけれども。ということでございました。

著者は、とはいえ、人はパンのみにて生きるにあらず、「自分らしさ」のない人生、自分自身を見つめない人生は、それでもむなしいのではないかということもおっしゃっています。

E.L.カニグズバーグの『ドラゴンをさがせ』に、「自分の中にドラゴンがいる人は生きにくい。けれども、ドラゴンのいない人生などつまらない」というような言葉が出てきます。
すばらしい作品なので詳しくはぜひ作品を読んでいただきたいのですが、ここで言う「ドラゴン」とは「自分らしさ」に通じるものがあるなあと、思い出しました。
うっかりすると食い殺されてしまいます。手なずけるのはたいへんです。貪欲で狡猾で好色だったりすることもあります。人間の理性が通用しません。
それでも「いた方がいい」と、わたくしも思います。
いたらいたで本当にたいへんだと思うのですが、自分の中の「ドラゴン」を鮮やかに/不器用ながらも手なずけて生きている人は美しい。
だったらおまえやってみろ、と言われると「遠慮しときます」と言いたくなることもあるのですが(笑)、「自分は下流じゃない」と思ってる人は、あるいは「あいつら人生への意欲が低いんだよ」と平気で人間を十把一絡げにする人は、そんな美しい人が羨ましいのではないかと思うこともあります。
だって、気にもとめない人のことをわざわざ言い立てたりしないでしょう?
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by n_umigame | 2008-02-02 14:14 | | Trackback | Comments(0)

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