『ルポ貧困大国アメリカ』 堤未果著(岩波新書) 岩波書店

貧困層は最貧困層へ、中流の人々も尋常ならざるペースで貧困層へと転落していく。
急激に進む社会の二極化の足元で何が起きているのか。
追いやられる人々の肉声を通して、その現状を報告する。
弱者を食いものにし一部の富者が潤ってゆくという世界構造の中で、それでもあきらめず、この流れに抵抗しようとする人々の「新しい戦略」とは何か。教育、医療、防災、そして戦争まで……極端な「民営化」の果てにあるものは? 米国の後を追う日本へ海の向こうから警告する!


タイトルが語るとおり、ジャーナリストによるルポルタージュです。
ピンポイントで問題点を描き出している著作であり、「アメリカという国全体の中でのこれらの問題点の位置づけ」という視点は欠けているものの、新書でそこまで述べるのはむずかしいだろうとも思われるので、NHKスペシャルのようなつもりで読みました。

読んでいて暗澹たる気持ちにさせられる本です。
そしてとても海の向こうの話とは思えない部分がたくさん出てきます。

第1章 貧困が生み出す肥満国民。
かつて、「貧乏→食えない→痩せている」というのが近代以前のイメージであったと思います。
中国やヨーロッパの近世以前の絵を見ていると、現代人の感覚では「肥満」と見なされるであろうほど、恰幅の良い人物画が多く見られます。これは一説によると「裕福な人は良い物を十分に食べてる→太っていること=豊かさの象徴」だったからだそうです。
それがなぜ現代のアメリカでは貧困層で特に肥満が問題になるかというと、高カロリーで栄養価の低いジャンクフードやファーストフードに頼らざるを得ないこと、栄養の正しい知識がないことなどが挙げられています。
「栄養の正しい知識がない」人は現代日本にもけっこういると思います。わたくしが経験したところでも、「こんにゃくなんか食べたくない」と言う知人がいたのでわけを聞いたら、「0カロリーなんでしょ?栄養がないもの食べたくないの」と言っていて、驚いたことがあります。「低カロリー=栄養がない」と思いこんでいる彼女はそう言えばお昼はカップ麺やコンビニ弁当ばかり食べていました。正しい教育を受ける機会がなければカロリーと栄養価を混同する人がいても仕方がないのかもしれませんが(中学校の家庭科で教わりますよね?)、ちなみにその知人はいわゆる有名私大卒で、今はママになっています。
"PEANUTS"を読んでいて、アメリカ人ってろくなもの食べてないなと思っていたのですが、ブロンクスの公立小学校の給食のメニューを見ていると、これがふつうだったのですね……。
わたくしが小学生の頃は「給食=まずいもの」でしたが、栄養バランスだけはとれていたように思います。

第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民では、「人災だったハリケーン、カトリーナ」を例に、FEMA(フィーマ)の弱体化が語られます。
阪神淡路大震災のとき、政府の対応の遅れ、指揮命令系統の不備が大きく取り上げられました。そして当時「アメリカにはFEMAという大統領直属の組織があってそのようなことは起こりえない」と言われていて、なんだかんだ言ってアメリカはやるべきことはやっているなあと羨ましかった覚えがあるのですが、「民営化」による弱体化であっというまにその力を失っているのだそうです。
これは第4章 出口をふさがれる若者たち、第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」、そして第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々にも通じるのですが、教育や医療、災害救助など、国が国民を必ず守るためにしなければならない部分までも「民営化」していしまうことで、本来の目的が達成できないばかりか弊害となっており、多くの悲劇を生んでいる様子が語られます。
FEMAを辞めた職員の方が語ることば、「国民の命に関わる部分を民間に委託するのは間違いです。国家が国民に責任を持つべきエリアを民営化させては絶対にいけなかったのです」には心からうなずくとともに、日本は大丈夫だろうかと心配になりました。

民間の企業は営利団体です。
なんらかの方法で利益をあげなければ自分たちはメシの食い上げです。規制緩和で競争が激化している現状では、企業もシビアにならざるをえないことは十分理解できます。しかし、わたしは民間の社員ですが、自分たちのお金になるからと言っても絶対に市場原理を入れてはいけない部分があると思います。
そして民間人の立場から言わせていただくと、「公」からの委託はゼネコン関連ならいざ知らず、儲かりません。財源(税金)は限られているのですから。

ブッシュ政権によりこの「民営化」の改革が大きく進められたようで、大企業や高所得者層の税率を下げたり、弱者切り捨ての政策などは、日本よりもっと露骨でえげつないです。(お金持ちの桁がやはり違うので。)だからアメリカよりはましだと言って安心していられませんが。

しかし、思うのですが、教育の質の低下、高い医療費が払えず(骨折や盲腸、出産にすら100万円という単位でお金がかかる)、民営化され、「派遣社員」として赴いた戦争で白血病になったり薬物依存やPTSDによる自殺者が急増したりで、とにかく人が育たない上、とても納得できない死に方でどんどん死んでいく人というのは、絶対、国家に仇を成すことになるのではないでしょうか。(しかもこの派遣の登録のさせかたはほとんど詐欺ですよ。アメリカは権利と契約と訴訟の国だと思っていましたが、考えを改めました。「権利と契約と訴訟」を主張することができるのはアメリカでも恵まれた人たちだけなんだということがよくわかりました。)

これらが人道的に問題があることはもちろんですが、「基本的人権? それ食えるのか?」というがりがりのカネの亡者でも、ちょっと考えたらこんなことを続けていたらどうなるか、わかるだろうと思うのですが。
本当に「ビジネスマン」なら、つまり、長い目で見た損得勘定ができる(戦略的にものを考えることができる)人間なら、こんなことを続けていれば、自分たちの世代が死に絶えたあとは故国はペンペン草も生えない荒野になる、ということが、わかると思うのです。
大統領やそれに追随する政治家や経済界の人たちは愛国心を強要するようですが、本当に自分の国を愛していたら、こんなこと絶対にできないと思います。

著作では最後に、「こんなことはおかしい」と声をあげる人たちが集まって動きだしているとあります。こういうところはアメリカの良いところだと思います。本当に間違っていると気がついたら、改めていこうという人が必ず出てきて、実際に動くからです。
日本はどうでしょうか。
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Commented by けんみっちー at 2008-02-09 00:48 x
こんにちは!
今日、書店に立ち寄り、買おうか買うまいか・・迷った本でしたが、やはり買っておけばよかったと思いました。
ブッシュ政権が悪いのか、その背後がいけないのかわかりませんが、確かに最近のUSAは酷いものです。正義のためと言いながら、他の主権国家に行って戦争をしているわけですから。仕事でUSAに行ったとき、なにか大雑把だな、日本のようなきめ細かさが無いなと思いました。しかし、日本も、こんなUSAに夢を持って渡るスポーツマンが多くいて、また、若い優秀な人々はUSAに目を向けている。USAを反面教師として見ることをしないばかりか、日本の良さを忘れている。欧州は、税金は高く、それぞれは贅沢な生活はしないけど、福祉や環境保護など社会的な対応がきちんとされていると聞きます。これは、長い歴史の中で、平穏に生活する術を知っているからかもしれません。日本は、アメリカナイズされすぎていてるように思います。食生活や習慣、言葉など、深い奥行きがある日本の良さをもっと学ぶことが必要かもしれません。明日の子供たちに何を残していけるのか、数十年後の人々に私たちの歩んできたことの代償を払わせることだけはしたくありませんね。
Commented by n_umigame at 2008-02-09 16:47
けんみっちーさま、はじめまして!
コメントありがとうございます。
読んでいてほんとうに寒々とする本で、せめて夏に読めば良かったと思いました(笑)。(いや笑い事では)
「とんでもねえ悪党が政権を握ったおかげで昨日までバラ色だった世界が目が覚めたらお先真っ暗になっていた」などということは現実の世界ではありえませんので、ゆっくりと腐っていくようにこうなってしまったのだと思います。ブッシュ政権はもともと開いていた傷口をさらに広げて塩やらカラシやら塗り込んだだけという気もします。(ジョージさんは平凡でわかりやすい人というか、そんなにクリエイティビティあふれる人材とも思えないですし。)
何かと言っちゃあアメリカに頭が上がらないのは、わたくしは「戦争に負ける、というのはこういうことなんだな…」と、歴史を思いながらときおり考えます。無茶な戦争をしでかしたあげく負けた世代のツケを、後世の人間はこうやって何年も何世代も払い続けていかなければならないのかと思っただけでわたくし、戦争反対です(笑)。同じようにわたくしたちの世代は、後世に新たな苦しみを残してはいけないですね、ほんとうに。
by n_umigame | 2008-02-03 18:01 | | Trackback | Comments(2)

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