「ほっ」と。キャンペーン

『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』 スーザン・A.クランシー著/林雅代訳

(ハヤカワ文庫NF)早川書房
「エイリアンに誘拐されたことがある人求む」ハーバード大の心理学者である著者は、記憶の研究の被験者を募る新聞広告を出した。集まったのは、ごく普通の人たちだった―奇妙な思い込みをのぞけば。彼らの話に物証はまったくなく、実際の記憶はないのに誘拐されたのだと語る人もいるが、みな不思議と似たような経験をしている。彼らにいったい何が起こったというのか?科学技術時代の複雑な人間心理の謎を解き明かす書。


ソビエト連邦が崩壊してからこちら、アメリカの一人勝ちになり、かの国のちょっとどうかと思う部分がだだ漏れになってきて「あいつらまずいよ」という世評が定着して早幾とせという感じでございますが、1980年代~1990年代のアメリカでは「偽りの記憶」が社会問題になっていたそうです。
「回復記憶療法」と呼ばれる、いわば催眠術で失われた記憶を呼び起こせば患者さんの精神疾患は快復すると思いこんだカウンセラーがどういうわけだか雨後の竹の子のようににょきにょきと出てきたらしく、幼少時に親に性的虐待を受けたとして子が親を訴え、事実無根だとして親が子を訴え…という、「親子は一世の縁」ということばを砂まじりで噛みしめるような、さながら地獄絵図が繰り広げられたそうでございます。
しかし患者さんが成人の場合はともかくも、裁判になったときに子どもが証人である場合は、往々にして子どもは状況をよく理解できないまま残酷なウソをつく生き物であり、また、離婚訴訟がらみで慰謝料目当ての母親から「お父さんに虐待されたって言いなさい」などと吹き込まれていた例もあって、最後には加害者として訴えられた側に陪審員の同情が集まったこともあったとか。
河合隼雄さんの著作などを読んでいると、元々アメリカでは父→娘への性的虐待の件数が日本とは比較にならないほど多かったそうなので、そもそもの土壌も手伝ったのだとは思いますが、安易にフロイトのトラウマの概念を援用した「回復記憶療法」が生んだ悲劇は、数といい質といい、はんぱではなかったようです。

この「偽りの記憶」と深い関わりがあり、もうひとつのアメリカで社会問題になっているのが、「アブダクション」、つまり「地球外生命体による拉致」の記憶がある人(アブダクティー)だそうです。(昨今、アブダクションというと地球外生命体ではなく、日本のお隣の半島の北っかわの人による犯行を指すことが多いようではございますが)

日本で言うところの「電波な人たち」です。

そしてアメリカでは社会問題となるほど、この電波系…失礼、アブダクティーの人たちが多いというのが驚きでした。

この著作は電波系の人たちの愉快な毎日を楽しく描いたルポルタージュ。
ではなく、ちゃかしてしまいましたが、ハーバード大学の心理学者で記憶の研究に転じた著者が、「なぜ善良でまじめなアメリカの市民であるこの人が、このような電波拾っちゃった、いや、偽りの記憶を持つに至ったのか」をまじめに研究したまじめな本です。

著者は最後に、神無き時代の新しい心の支え(宗教)としてのアブダクション、という見解で著書を閉じておられます。
アメリカ以外の国でアブダクションが社会問題になっている国というのは、わたくしは寡聞にして存じません。自分の身近にもそんな人いません。もしかしたら、よくミステリ・チャンネルで放送されている『ム○』などといった雑誌には、そのような方々が集って熱い意見を交わしておられるのかもしれませんが、鬼神を敬して之を遠ざくは知と謂ふべしと申しますのでご遠慮申し上げます。

けれども、もし、本当に「心の支え」を「エイリアンに誘拐されて人体実験をされたこと」などに求めてしまっていて、そのような人が多いのであれば、かの国の人がどんなにつらい人生を余儀なくされているのかと、かわいそうで仕方がありません。
そして、前述したような、親も子も夫婦もあったもんじゃない仁義なき戦いを繰り広げる人もそうですが、『ルポ貧困大国アメリカ』で述べられているような、一度の病気で借金苦になり貧困層に転落したり、精神的にも肉体的にもものすごくタイトな国であるというイメージがさらに強くなりました。
「アメリカは一部の大金持ちの一人勝ちだ」と言われていますが、わたくしは「本当に幸せな人はまわりの人も幸せにする」という持論の持ち主ですので、「大金持ち」の人が「幸せ」ではないのではないかと、疑問に感じています。
だって大金持ちのまわりには不幸な人がわらわらと叢生しているような国なわけなので。
例えば、大好きな人から告白されたとか、幸せで天にも昇る気持ちのときを思い出していただきたいのですが、そういうときって世界はバラ色で、東に大きな荷物のお年寄りがいれば代わりに持ってあげ、西におなかをすかせたノラネコがいれば行ってこれでも食えとねこまんまを出してあげたい気持ちに、この幸せを周囲に分けてあげたいという気持ちになるでしょうが。長続きしないけど。 

日本も、「おれ、エイリアンに誘拐されて人体実験されたんだ」と真顔で言う人が増えてきたらかなり要注意なんだろうと思います。いやなバロメータだけど。
[PR]
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/7216667
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
by n_umigame | 2008-02-09 22:42 | | Trackback | Comments(0)

Welcome. 本と好きなものがたり。


by n_umigame
プロフィールを見る
画像一覧