*さいはての西*

fwest.exblog.jp
ブログトップ

『愚者たちの街―刑事エイブ・リーバーマン』 スチュアート・カミンスキー著/棚橋志行訳

(扶桑社ミステリー) 扶桑社

老刑事エイブ・リーバーマンのもとへ、魅力的な売春婦エストラルダが保護を求めてきた。パートナーのハンラハン刑事が護衛についたものの、わずかな隙に殺人は起こった!しかも、現場のアパートには、ふたりのこわもての上司が住んでいる。大失態のなかはじまった捜査は混迷を深め、一方では私生活に続発する難問に、老刑事の悩みは深まるばかり。だが、犯人の凶弾は刑事たちの背後にも迫っていた…MWA賞作家カミンスキーが、巧妙なミステリーに人生の哀歓を描きだす、大好評の警察小説シリーズ。


『人間たちの絆』を読んでからけっこう経ってしまったのですが、急にリーバーマンシリーズが読みたくなり、それから全巻、翻訳が出ているものは一気読みでした。(修羅場中に何をやってたんでしょーか。)
ぼちぼち感想をアップしていきたいと思います。

さて、このシリーズは、いちおうミステリーということになるのですが、どちらかというと地味で、度肝を抜くようなトリックや、おもしろいけど自分の学校や職場にいたらちょっと困っちゃうなこんな人という個性の名探偵が快刀乱麻で謎を解く、といった趣向のものではありません。

なのですが、非常にしみてくるというか、特に心身が弱っているときに読むと、とっても"来"ます。

主人公のリーバーマンは63歳、膝の関節炎と不眠症と高コレステロール血症に悩まされながら仕事に行くだけでもハードだと思うのに、一人娘は離婚の危機を抱えて子ども2人を連れて帰って来ちゃうし、自分の所属するユダヤ・コミュニティのおつきあいもあるしで、たいへんです。
不機嫌なダックスフントみたいな顔で小柄でやせっぽちなのですが、美人で聡明でやさしい奥さんがいます。(前提と結論に何の因果関係もないだろ) そんな奥さんはリーバーマンの巻き毛と小さな口ひげと品のあるところがお気に入りです。長年連れ添った仲ですが、今でもラブラブですので、電車の中とかでうっかり、読んでいてひっくり返らないように。わたくしはひっくり返りそうになりましたが自宅にいて良かった…。
こう見えてリーバーマンは怒らせるとこわいです。目的のためなら手段は選ばないところがあって、単体でもこわいですが、ハンラハンと組んだら無敵です。

一方、相棒のハンラハンは50歳にあと数年というお年頃。アルコール依存症を抱え、お父さんもおじいさんも警察官でカトリックという由緒正しい(?)アイルランド系です。「平たい端正なアイルランド系の顔」で髪は黒。黒い髪で端正な顔立ちの系統のアイルランド系の人というと、ああ、あんな感じかな、というイメージがわきやすいです。ただし大男で、肥満の危険水域ぎりぎりです。
ハンラハンの飲酒が原因で妻と2人の息子には捨てられてしまいました。家族に手をあげなかったのだけは立派だと思います。(代わりに家具を壊したらしい…)でもやっぱり自慢にはなりません。
いきなり初登場のこの『愚者たちの街』で、張り込みで入ったチャイニーズ・レストランで飲んでしまい、勤務中に飲むだけならまだしも(まだしもなのか)、ナンパしてる間に保護を求めてきた人が殺されちゃいました。だめじゃん。でもナンパした彼女とは婚約までこぎつけました。
立派だ、ハンラハン。

リーバーマンも良いのですが、わたしはハンラハンがお気に入りです。(2次元3次元問わずアイルランド系の人に弱いです…そうと知らなくても好きになっちゃいます) 
ナンパした彼女はアイリスという中国系の女性なのですが、初デートのときに「こんなカジュアルな格好じゃ彼女の父親にこの男は真剣じゃないと思われるかも」と6回も服を着替えたり、ダイエットを決意したり(そして本当に実行している)、女房が帰って来るかもしれないと思って、いつも家をツヤピカにしていたり(ハンラハンの家事は一流)、なんちゅーかわいいオヤジなんだまったくもう!!(うるさいよ)

リーバーマンとハンラハンは、2人とも年齢も離れているし信仰も違うのですが、静かな信頼で結ばれていて、それが読んでいてとても安心できて、心地いい。
ふたりのドリフコントじゃなくておとり捜査のときの演技とかサイコーです。息、ぴったりです。
ハンラハンは「警察クビになったらどこに行こうかなあ」と悩んでますが、リーバーマンと組んでコメディアンになるっていう進路も真剣にご検討ください。

ハンラハンが「中国系の人をどう思う?」と訊ねたリーバーマンの答えがすごくいいですね。
リーバーマンのような人ばかりだと世界はどれだけ住み易くなることでしょうか。
(もう少しあとのお話になりますが、法律上は離婚が成立したものの、カトリックのハンラハンは教会で結婚式を挙げてもらうことができませんでした。それで、中国式でもいいかとなったのですが、「中国式の結婚式でも(教会で挙げるみたいに)花婿の介添人が必要だったら、おまえに頼んでいい?」と遠慮がちにリーバーマンに聞いてみるのですが、これまたリーバーマンの答えがなんちゅーかわいいオヤジなんだまっくもう!!)(だからうるさいよ)

それからこの方の翻訳がとても良いということもあります。
海外ミステリの翻訳に関しては、早川さんと創元さん以外はちょっと斜めに見ていたのですが、反省しました。
良いです、本当に。
(で、翻訳が良いと原書でも読んでみたくなるのですが、原書の価格がえらいことに…。)

2人とも家族の深刻な問題を抱えているし、決して軽くはない持病もあるし、仕事は仕事で治安の悪化したシカゴで本当にたいへんなのですが、そんな2人に「人生はつらいが、いいこともある」と言われると(@『人間の絆』)、そうだよね…と頷かざるをえません。

この作品はまだ1作目なので、まだ少し軽い印象なのですが、どんどん濃密になっていきます。
渋いですが、何度も立ち止まって読み返したくなる文章があります。
至福のシリーズでございます。
[PR]
by n_umigame | 2008-07-28 23:18 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/8356987
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。