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『エノーラ・ホームズの事件簿―消えた公爵家の子息』 ナンシー・スプリンガー著/

杉田七重訳(小学館ルルル文庫) 小学館
シャーロック・ホームズの妹が事件を解決? ビクトリアンミステリー開幕!

『フロスト気質』を中断してこちらに手を出したらあっという間に読めてしまいました。
ライトノベルの字の密度って…本自体が物理的に軽いし。

さてさて、この作品はものすごーく久しぶりに読んだライトノベルなのですが、なんとなんと、作者が『アイルの書』のナンシー・スプリンガーです。

このルルル文庫(…ううう何て叢書名なんだよう…)は創刊間もないシリーズですが、広告を見ているとけっこうあなどれないラインナップです。

パトリシア・A・マキリップ
タニス・リー
ヴィクトリア・ハンリー

どうですか。
今まで早川さんや創元さんあたりがたすたすっと白羽の矢を立てていた作家さんたちがぎゅぎゅっと。
あなどれないでしょう。叢書名は「ルルル文庫」だけれどもね!(←しつこい)
帯のアオリが「恋と冒険は乙女のたしなみ!」ですからね。
こういうアオリを考える人ってたいていいいトシこいたおじさんだったりするそうですよ。
(おじさんだって仕事でやってるんだろうけれども。)

そんでもって、翻訳の文体は、バッチリ、ラノベ調です。体言止め多いです。読んでてこっぱずかしいです。翻訳物なので、かろうじて改行はあまりないです。

シャーロック・ホームズに年の離れた妹がいた、という設定なのですが、ホームズのパスティーシュとしては、正直なところ、そんなに新鮮なものでも何でもない作品です。
ですが、著者はホームズのパスティーシュを書きたかったわけではないことが、一読するとすぐわかります。

ブログなどで他の方の感想などを拝見していると、「抑圧された女性という被害妄想がすぎる」といった見方が散見されるのですが、なんのなんの。
この程度で引いてちゃあ、『ゲド戦記』の4巻なんて痛くて痛くて読んでられませんよ。
この主人公が自意識過剰なのは、認めます。
ですが、それは、この子が14歳の少女だからですよ。
むしろわたくしなど、己の14歳だったころがよみがえってきてあまずっぱーいキモチにさせられましたが、それでも、もっとこっぱずかしくて「ギャー!」などと言いながら本を投げたくなったのは『ゲド戦記』2巻でしたしね…。(遠い目)

女性作家がよく14歳の少女をジュブナイルの主人公に選ぶのを、わたくしは作家の慧眼だと思って小気味よく思っておりました。
女の子の14歳は特別な年です。今思い出してもそう思います。単にわたくし個人がそうだったのかもしれませんが、「個人的に特別な年だった人」がほかにもいたから、14歳の少女を主人公に選ぶ人がいるのだろうと思います。
それはこの作品にも該当します。

この作品の主人公エノーラやその母親のような、自分の頭で考え、行動する(したい)女性にとってだけでなく、ヴィクトリア時代の女性の苦難は、もちろん、こんな生ぬるいものでなかったことも、想像に難くないです。
ヴィクトリア時代については英文学を通しての大学の教養課程で教わった程度の知識しかありませんが、それでも、女性や、原則とされるものからはずれた人(例えば同性愛者など)にとってどれだけたいへんな時代だったのか、そしてなぜ英米でフェミニズムが盛んになったのか、じんわりと理解されるには十分な内容でした。
(坂田靖子さんの『バジル氏の優雅な生活』は大好きな作品ですが、文庫の解説にもあるように、あれは坂田さんの紡ぎあげた「夢のヴィクトリア時代」であることも間違いありません。)

帯のアオリのようにこれからエノーラは恋もするのかもしれませんが、成熟した、良い意味で自分に自信のある男性は、相手が女性に限らず、無意味に人を見下したりしません。きちんと対等の目線で向き合ってくれます。そんな男性に出会えるよう、がんばれエノーラ。でもって、きみもも少し大人になろう(笑)。いい女は男と見ればライバル視してきゃんきゃんわめくなんてことはしないもんだぞ。問題があるとすればそれは「男だから」じゃなくて、きみのお兄ちゃんが「そんな人」だからだ(笑)。

作品は、ホームズ兄弟への愛情があまり感じられないので、ホームズファンにとってはちょっとどうかなーという印象なのですが、今はエノーラのほぼ「敵」ですので、大目に見てあげてください。てわたしが言う筋合いのことではないのですが。
これからだんだん成長していくのであろうエノーラが楽しみです。
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by n_umigame | 2008-08-11 01:00 | | Trackback | Comments(0)

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