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『チャイルド44』(上下) トム・ロブ・スミス著/田口俊樹訳(新潮文庫) 新潮社

スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた…。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作。


1990年まで12年に渡り52人の少年少女を殺害したアンドレイ・チカチーロに想を得て書かれたという、サスペンス。
デビュー作ということですが、評判どおりの完成度の高さでした。ちょっと出来過ぎの感がなくもないですが(笑)、今後大化けしていただきたい作家さんです。
時代をスターリンの恐怖政治がクライマックス(?)を迎えていた1950年代初頭に移したことが成功していると思います。

12年ものあいだ52人もの子どもを(一説によると53人だそうです)残虐な方法で殺したにも関わらず、なぜ捕まらなかったのかと言うと、ユートピアであるはずの共産主義国家ソ連には殺人などという「犯罪」は存在せず、そんなものは資本主義に毒された「西側」の人間がやることである。という「建前」があったからだそうですが、”すべての人間が平等に暮らせる社会”という夢(本当に文字通り”夢”)が、どーしてこのような非人間的な社会になってしまうのか、しみじみと考えたことでございます。

殺人以外にもホモセクシャルの人なども「ないもの」として一斉に消し去ってしまうおそろしさ。
作中、主人公レオの妻ライーサが言っているように、彼らは事実を恐れる。
あるものをあるとして受け入れるのが怖い。
アルコール依存症の人は、まず自分がアルコール依存症であることを認めることがむずかしいそうですが、それと似たような理屈なのでしょうか。
病気の自覚がない人に治療のしようがありません。

さて、サスペンスなのですが、登場人物一人一人の造型がしっかりしていて、そこで繰り広げられるドラマ、特にレオとライーサの夫婦の絆の再生、”親子”(括弧付き)の絆の再生、社会との絆の再生など、人は何度でも生まれ変わっていくことができる、それは自分次第なんだという非常にポジティブなメッセージを読みとることが出来ます。

また、ネタバレになってしまうので多くは語れませんが、もう、レオ、男にモテモテ。(笑)
いや、レオにしたらこんなモテ方、激イ・ヤ★ と思っているに違いないですが、えーと、レオがいろいろな意味で好きとしか思えないその屈折した妄執を抱いているキミとかキミ、レオのどこがそんなにいいの? って聞きたいですよ。
けど、ドヘンタイさん★には違いないのですが、あまり臭わないと言うかじめじめしていないと言うか(いやしてるかも…)、読後感は悪くないですよ。

リドリー・スコットがメルギブさんと競り合って映画化権をゲットしたそうです。
このまま映画化したらさぞかしリドリー・スコットな映画ができあがりそうです。(わたくしがふと頭をかすめたのは『グラディエーター』です。)

この終わり方はいかにも続きます!という印象を残しますので、シリーズ化されるかもしれませんね。
そして、もう少し、あと一息何か足りない気がします。やはりこの優等生的な印象が「次おかわり!」となりにくいので、こー、今ひとつできがアレでも、これはこの人にしか書けない、だからこの人についていくわどこまでも! と思わせるようなマジックを身につけてまた帰ってきて欲しいと思います。

ソ連が舞台ですけれども、人名は単純にしてあります。
きっと英語圏の人も「ロシア文学はおもしろいけどあの人名さえなければ…っ!」と思っている方も多いのでしょうね(笑)。かくいうアタクシもでございます(笑)。
ときどき、英語圏の人の名前の愛称がうっとおしいから翻訳ものは読まね。と言う方がいらっしゃいますが、ロシア文学に比べればなにほどのことやある。でございますよ。(…しかし、なんでRichard がDickになるのかはアタシも教えてほしいわプリーズ。Rが発音しにくいからDに置き換わったというRick→Dick説が一番説得力があるかなあ…?)

イギリスの人らしいユーモアもかいま見えて、たいへん読みやすいのでその点でもオススメです。(なんでこう、ケンブリッジ大のOBは”ばかばかしいけど論理的”という離れ業で人を笑わすのが巧いのでしょうね。学風なのでしょうか。ダグラス・アダムズといい、モンティ・パイソンの一部のネタ出しといい。)
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by n_umigame | 2008-10-02 23:31 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
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