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*さいはての西*

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『殺人者はまだ来ない』 イザベル・B・マイヤーズ著/山村美紗訳(光文社文庫)光文社

長編本格ミステリー 《マラキトレント殺人事件》

冷酷非情な大富豪マラキ・トレントが非業の死を遂げた。現場は完全な密室――だが、劇作家にして名探偵ジャーニンガムの慧眼は、それが偽装殺人であることを看破した。容疑は孫のデビッドと館に幽閉されていた薄幸の美少女リンダに……。懸賞小説でE・クイーンの処女作『ローマ帽子の謎』をおさえ第一位に輝いた、幻の女流作家の極めつきの名作!(光文社・電子書店より)


劇作家が名探偵、というとジーン・ワイルダー主演の『名探偵は演出家』を思い出しますが、ジーン・ワイルダーの名探偵よりずっと若い(みたい)です(笑)。

紹介文にあるように、雑誌の懸賞小説でエラリイ・クイーンの処女作『ローマ帽子の謎』を抑えて一位を獲得したという作品。

ただ、その一位になったという経緯が、ミステリファンの皆さまはご存じかと思われますがちょっぴしいわくつきでございまして。
『ローマ帽子の謎』が一位に内定していたのに、件の雑誌の経営破綻で経営者が変わり、雑誌が女性向きのものだったことからどーも”その程度の作品”と見なされている節があること。
そして、その後の活躍が見られないことから、日本ではまるで「あのクイーンに勝った(けど一発屋)」というだけで読まれているようなマニアックなアイテムなのかと思っていましたが、どうしてどうして、謎解きとして勘所はきちんとおさえてあって、楽しめました。

冷酷な年寄りの男に屋敷に幽閉された薄幸の美少女、その少女を救い出そうという婚約者、その婚約者を助ける(文字通り通りがかりの)騎士道精神に富んだ3人の男(この中に名探偵とその親友の刑事と秘書含む)、謎めいたインド人の召使い、魔女のような老婆などなど、ゴシック趣味満載の中で繰り広げられる、密室、呪われているというルビー、不可思議な行動を取る捜査側の人間、どんでんがえし(裏はばればれなんですけれども)。
それがすべて登場人物の会話を中心に物語が淡々と進むので、あっという間に読めます。

しかし、上でこんなことを言ってまだその舌の根の乾かぬうちから言いますけれども、”女性むけの雑誌”の責任者としての、その交代した経営者の判断は、適切だったかと思います。

と申しますのも、わたくしが同じ立場で経営の再建をかけた博打を打つとしたら、やっぱり『ローマ帽子~』は捨ててこちらを取りますね。

なぜなら、『ローマ帽子~』、くどい!(笑)
やはりお世辞にも読みやすいとは言い難いです。
しかも探偵役が、あんまり的を得ていると言いがたい引用つきの話がしかもくどいファザコン男で、しかも最後に謎を解くのは探偵じゃなくてその親父かよ! こんな話が婦女子の皆さんのハートをゲットするだろうかいやしない。
……と考えたであろうことは想像に難くございません。
(いやあっさり一発でその父子に落とされるわたくしのような者もいるわけですが、自分が婦女子の代表サンプルになる日は、お天道様が西から昇っても来やしねえことくらいわかってますよええ…(泣)。)

ただ、このラスト。
あのエラリイ・クイーンの代表作品を思い起こすのですが、当時こういう落ちはまったくオーケーということだったのでしょうか。

デビュー作で人殺しと同じ土俵にあっさり上がってしまい、悪びれない探偵がその後活躍しなかった(できなかった)というのは、何だか暗示的です。
by n_umigame | 2008-10-06 22:05 | ミステリ