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『源氏の男はみんなサイテー : 親子小説としての源氏物語』 大塚ひかり著 (ちくま文庫)筑摩書房

なぜ『源氏』の男たちはかくまでサイテーか?『源氏』の男たちは、「親子関係」の中でとらえて初めて、その男女関係も理解できるのだ。『源氏』は愛の物語、親子関係と恋愛関係、愛という同じ穴のむじなに生きる人たちの物語である。それは読み手の恋や親子関係に重なって、私たちの心をほぐし開いていく。幸せって何?という問いかけをはらみながら。


先日、『男が女を盗む話』の感想のところで言いかけたら刺客(?)に襲われて(?)最後まで言えなかったセリフまんまのタイトルの本があったよーな…と記憶をたぐっていったところ、ありました。

著者の方の、源氏キャラに対する評があまりにも自分の言いたかったこととバッチリ★マッチ、唯一わたくしが「もしこの中で一人選べ」と言われたらこのキャラしかいないわね。と思っていた伊予介に対する評までマッチで、こわくなるくらいでした。
(は? 伊予介ってだれって? 空蝉のダンナの受領ですよ。 ん? 「またオヤジじゃん!」とか言わないの。 著者の言葉を引用すると”どっしりとした貫禄のある、大人の男”で、冗談の一つも言いたくなった光源氏が”わけもなく、まぶしい気持ちになる”ような希有な男ですよ。光源氏と伊予介では身分が全然違うわけで、その光源氏が気後れするくらい、” とにかく「伊予介は、人がバカにしていいような水準の男ではない」ことが読者に示される。”と。いちいちそのサイテーっぷりを描かれる『源氏物語』の中ではめずらしく紫式部の愛(?)が注がれたことが伺えるキャラなんですよ。でもここまで書いておいて「女に都合が良すぎてつまんない」と最後には一刀両断なんですけれども(笑)。)

著者のキャラクター分析は非常に微に入り細を穿つと申しますか、例えば、夕霧。
”一見、とても男っぽいのは、根が女々しいので、男らしくあろうと気を張っているせいなのだろう。”というような調子で、非常に説得力があります。
目のいい人は同じようなところを突いてくるなあと思ったことに、ル=グウィンさんがやはり、こういうようなエセ・マッチョの脆さが大嫌いで、『ゲド戦記』の4巻を読んでいるときひしひしとそれを感じました。(例えば、”ゲドがふきん一枚で自分の男らしさが失墜すると思わなければいいんだけれども”と、テナーに思いやられるシーンがあるのですが、それまでわたくしは男らしさについてこういうふうに考えたことがなかったので、蒙を開かれたような思いをしたものでした。ここで言う「ふきん」はもちろんメタファですが、確かに、ほんものの男らしさはそんなことではゆらぎはしない、という自信に裏付けられているものだと思います。)

しかしこの著書のすごいところは、ただ源氏キャラのサイテーっぷりを、会社の女子更衣室で交わされるグチレベルでだらだらと垂れ流しただけの本では、決して、ないことです。

キャラクター分析の深さは上述したとおりですが、サブタイトルの「親子小説としての源氏物語」、この焦点もまた秀逸だったと思います。

源氏物語の登場人物たちの問題点が親子関係に帰す部分が多いと思われること、また実際に物語中で描かれる親子関係について、そして最後には個としての自分自身の存在についてまで突き詰めて語られていきます。

そもそも「高貴な男との結婚も出産も女を幸せにはしない。たとえ限りなく愛されたとしても」と、オープニングで宣言された物語が、なぜ、宇治十帖という、どんどん閉塞していくような章が必要だったのか。
世間的には贅沢だと一喝されるような、光源氏の妻たちが抱える「わかりにくい不幸」が、むしろ現代人にこそ理解できる不幸ではないのか。
そして、「私はなぜ不幸なのか。」という問いに集約される。
紫式部の悪の化身とも言える源氏のサイテー男たち。彼らは女を決して幸せにはしない。
宇治十帖に至るまでは、夫や父といった男たちが女を不幸にするのだという視点で描かれてきた。それが、宇治十帖に至って、問い直される。
「不幸は人のせいなのか?」と。

著者の導き出した結論は、(解説の米原万里さんも書いておられますが)思わず涙ぐんでしまうほどでした。

光源氏サイコー! という視点からは決して生まれてこない、すばらしい源氏物語の読み方がここにあります。
長年遠ざかっていた『源氏物語』を、改めてもう一度読み直したくなりました。


*追記*
解説で米原万里さんが「もう一度源氏を読むとしたら、今度はぜひ大塚ひかり訳で」と書いてらっしゃるのですが、なんとなんと、大塚ひかり訳『源氏物語』が出るんですね!
もうすぐです。
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by n_umigame | 2008-10-31 01:42 | | Trackback | Comments(0)

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