*さいはての西*

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『殺人者の顔』 マニング・ヘンケル著/柳沢由実子訳(創元推理文庫) 東京創元社

雪の予感がする早朝、小さな村から異変を告げる急報が入った。駆けつけた刑事を待っていたのは、凄惨な光景だった。無惨な傷を負って男は死亡、虫の息だった女も「外国の」と言い残して息をひきとる。地方の片隅で静かに暮らしていた老夫婦を、誰がかくも残虐に殺したのか?イースタ署の面々が必死の捜査を開始する。スウェーデン警察小説に新たな歴史を刻む名シリーズ開幕。


ヴァランダー警部シリーズ、第1作目。

あー陰気だ!!(笑)
なのに一気読みだ! (こんなことしている場合ではないのですがないのですが!!)

訳者によるあとがきで、マルティン・ベックものとは違って舞台は花のお江戸ならぬ花のストックホルムではないし、ベックに比べてちっともかっこよくない、とありますが、いやいやマルティン・ベックって「カッコイイ」という形容詞がすとんと来るキャラクターでしょうか? わたくしは来ません。(コッラー!) だって、人間、カッコイイだけがすべてじゃないでしょう。(大きく出た)
だって、「かっこよくはないけど魅力的」という形容は成り立ちますものね。特にオヤジには!(やっぱりそこか)

で、じゃあ、ヴァランダーは魅力的なんですか? という話ですが、非常に人間くさいという意味で魅力的なキャラクターです。
この、きゅーっと胸をしめつけられるような情けなさ、既成のフィクションの誰かを思い出すと思ったら4巻のゲドですよ。

スタート地点のクルト・ヴァランダーさんですが、まず、奥さんに逃げられて3カ月。
一人娘の娘さんにも出て行かれて、お父さんとも折り合いが良くない。とにかくお姉さん以外の家族とは顔を合わせれば口論しています。
それで職場はというと、「親友と呼べるほど親しい人はいない(けれども一体感がある)」という、これまた非常にリアル感あふれる職場で、警察というと大きな家族だと言い切っちゃうアメリカの警察小説とはやはり違って、決まった相棒もいないし、べたべたしたところがまったくありません。
そして、もちろん、寒い。(北欧だから。)

4作目冒頭でヴァランダーは慢性の過労に心労が重なってうつ病の診断がおりるのですが、この「寒い」というのは侮れない要素なのではないでしょうか。(と思ってカリブに旅行に行ったら今度は飲み過ぎちゃって逆効果だったヴァランダーさんですが。)

最初は奥さんに捨てられたことがなかなか受け入れられず、おしゃれしてレストランに会いに行って酔っぱらいと間違えられてドアマンに追い返されそうになるなど、著者の「そこまで書くか」は1作目から炸裂していたことも判明しました。著者はどSなんでしょうか。(どSとか言うのやめなさい)それともこの主人公は著者の自嘲も込めたキャラクターなんでしょうか。何をやってもうまくいく主人公がご都合良く話を締めるよーな「オレは神だ」と言わんばかりの(実際言っちゃってるキャラクターもいましたが)よりはまだ好感が持てますが。

涙もろくて、惚れっぽく、直感に頼った捜査方法で、中年太りで走るのもたいへんそうだし、張り込みでもかなりかっちょ悪いことになったり(1作目で火事場で英雄になったのもつかのま、そのあと何度たんこぶが破れたことか…)、拳銃もふだんは持ってないので(スウェーデンの警官は丸腰(だった?)なんですね)いざとなったら使い方知ってるのかなあと不安だし、自己評価が低くて読んでてイラっとする場面は数知れず、それでも世界中でこのシリーズが愛読されている理由がよーくわかります。

それはヴァランダーの人間としての「優しさ」に負うところが多いように思いますし、また、人生はつらいがそれでも生きていかなくちゃ、というヴァランダーの戦いかたが身につまされるということもあるかと思います。

ミステリというよりは、そして警察小説というよりは(こう呼ぶにはイースタ警察署の面々は{チーム感}が弱すぎます)、ヴァランダーの七転び八起き物語といった趣ですが、みんな、泣きながら迷いながら転んでも何度でも立ち上がりながら、くやしくても笑って、また歩いていくのだ、ということがしんみりと浸みてくるお話であります。

しかしあまりにもヴァランダーが陰気くんなため、万人にはオススメしがたいのがつらいところです(笑)。

1990年代のスウェーデンの問題点なども合わせてよく書き込まれているため、スウェーデンという国に興味がある方にもオススメいたします。

あ、これだけいろいろ書きましたが、「ぷっ」と笑えますから。意外と。(←ひとこと多い)
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by n_umigame | 2008-12-01 23:09 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
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