*さいはての西*

fwest.exblog.jp
ブログトップ

ヘニング・マンケル4作

『リガの犬たち』
『白い雌ライオン』
『笑う男』
『目くらましの道』 上下
         以上、柳沢由実子訳(創元推理文庫)東京創元社

ヴァランダーシリーズ一気読み。
冬の新刊が落ちたらこれのせいでした……。(人のせいにするなー!)

マルティン・ベックシリーズに触発されて書き始められたというこのシリーズですが、マルティン・ベックシリーズがスウェーデン国内から出ないのに比して、このヴァランダーシリーズはかなりインターナショナルな展開でお話がぐいぐい進みます。

…といっても某十○川警部のように管轄外の地域や外国にまで押し掛けては勝手に捜査しちゃうとかそういうわけではなく。
マンネリズムを避けるために無理矢理外へ出るというよりは、著者の純粋な興味によってヴァランダーが冒険するはめに陥るというのがパターンです。

まず、『リガの犬たち』。
1990年代初頭で、まだ冷戦の傷跡が生々しく残るヨーロッパ(といっても舞台はスウェーデンとリガ)が舞台です。
そんなわけで(?)スパイ小説のような活躍を余儀なくされるヴァランダーですが、いや、ふつう、死んでてもおかしくないでしょというようなたいへんな目に遭います。
そしてそこはそれ惚れっぽいヴァランダーさんのことですから、事件の関係でリガからやってきた警察官の妻・バイバに惚れてしまいます。
1作目の女性検事と違っていちおうシリーズを通してヴァランダーの心の恋人であり続けるのですが、この2作目を読んでいるときはまだそうなると知らなかったため、ほんまに惚れっぽい男やな自分。とツッこんでしまいました。

『白い雌ライオン』。
今度はなぜか南アフリカが深くからんできます。
スウェーデンと南アフリカとどう関係があるの? と思うのですが、非常に巧みに双方を絡めて物語は進行します。
ヴァランダーは仲間の警官たちに時々おかしくなったんじゃないかと思われるような行動をとるのですが、今回も南アからやってきた殺し屋のマバシャとの間に奇妙な友情のようなものが芽生えて、こっそり南アに帰してやろうとします。
確かに、警官としてはダメな行動なのですが、そしてかえって問題を大きくたあげく自分の身までも危険にさらすことになるのですが、人として共感できるというか、都会では生きていけない危険な野生生物をサバンナに帰してやろうとするような、そんなヴァランダーがいい味でした。
プライベートでは80歳近くになる父親が30歳近く年下の女性と結婚すると言い出して、ヴァランダーさんびっくり仰天です。
それから平素は決して親しくはない職場の仲間がプレゼントをくれるシーンがとても良かった。
親しくはないとか周囲の愛には値しない人間だ思っているのはヴァランダーだけなんじゃないか、と思うシーンでした。

『笑う男』
さて、一匹狼の警官が主人公の警察小説というと巨悪と戦うと相場が決まっていますが、出ました、巨悪。さあ、思う存分戦ってくれたまえ! といやが上にも期待が高まるところですが、肝心の主人公ヴァランダーさんがうつ病になってしまいました。
夏が来たときの登場人物たちのうれしそうな愛おしそうな様子は、心がこもった描写でした。この一事をとっても、北欧の夏の愛おしさがその地にすんでいる人たちにとっていかほどかわかる気がいたしますが、年間を通じて日照時間が短く、寒いスウェーデンでは冬場だけうつ病にかかる人が非常に多いとか。ヴァランダーさんの場合はそこへ慢性的な過労と睡眠不足で、なるべくしてなったという感じです。
そして、前々から、アメリカや大都市でしか見られなかったような凶悪な事件が、自分の町イースタ(田舎らしい)でも起こることについて、オレはもう今時の事件についてけません、警官辞めます、と思って署長にもそう言っていたのですが、友人が殺されたことで「辞めてる場合かあああああ!!」と、復帰します。
単純だ…。
しかしそうでなくては「ヴァランダーシリーズ、主人公がうつ病で辞職につき、完。」てなことになってしまうんで、そこはまあ。
そして巨悪さんとの戦いがまた一匹狼の面目躍如たる戦いでした。
やっぱりこのシリーズ、警察小説じゃないっすね。
群像劇になってないです。
いや、突っ走る警官がいてフォローに振り回される仲間たちという構造でもいいのですが、ヴァランダーシリーズの場合「突っ走る警官、しかもいつもいつも約一名」しかいませんので。(きっぱり)
この作品は、終わり方がとても好きです。

『目くらましの道』 上下
ついに上下巻。しかも1冊960えん……最近うっかり早川さんや創元さんの文庫を油断して買うとえらいことに。
えーさて、ネタバレになりますが、このお話はアンファン・テリブルものです。そしてこの犯人と警察の丁々発止のやりとりだけを描いたのであれば、アメリカで量産されたような作品になっていたと思うのですが、そこはマンケル、きちっと社会問題も織り交ぜてきます。
最後の方の”菜の花畑の少女”の父親の描写と、ヴァランダーと父親の、お互いに対する不器用な愛情のやりとりが身にしみる1作でした。おかげで(?)バイバとはちょっぴり(?)危機(?)な気がしますが(笑)(いや笑い事では)。

とりあえず以上でヴァランダーシリーズの翻訳が出ているもの全部なのですが、まだ未訳の作品が何点かあり、完結しているようです。
なんでもリンダが父親と同じ警官の道を選んだとかで、BBCがドラマ化したのはこの父と娘の「親子デカ」の部分らしいですね。日本でもミステリチャネルあたりで放送してくれるといいなあ。
[PR]
by n_umigame | 2008-12-31 23:13 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/9138434
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。