*さいはての西*

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「西のはての年代記」3部作 アーシュラ・K・ル=グウィン著/谷垣暁美訳(河出書房新社)

『ギフト』(西のはての年代記 I)
ル=グウィンが『ゲド戦記』以来38年ぶりに描く、ヤングアダルトファンジー3部作・第1作。〈ギフト〉と呼ばれる能力を受け継いだ少年オレックの葛藤と成長を軸に紡ぐ壮大なファンタジー。

『ヴォイス』(西のはての年代記 II)
ル=グウィンの新たなファンタジーシリーズ第2作。〈西のはて〉の都市アンサルでは、他国の圧政により本を読むことが禁じられていた。少女メマーは、館に秘密の部屋があることを知る。

『パワー』(西のはての年代記 III)
ル=グウィンの<西のはて>の物語、ついに完結! 都市国家エトラで奴隷として育った少年ガヴィアには、幻(ビジョン)を見る力があった。その多くが現実となるなか、悲惨な事件が起こり、ガヴィアの放浪が始まる――。
(以上、出版社HPより)

1作ごとに主人公が変わりながら同じ世界を描くという、『ゲド戦記』と同じ手法で描かれたル=グウィンのハイ・ファンタジー。
おんとし70歳を越えてまでまたすばらしい世界を見せてくださいました。

読んでいて、わたくしはローズマリ・サトクリフの作品を思い出さずにはいられませんでした。

丹念に書き込まれ、ゆっくりと世界が広がって”見えて”くるように描かれているところや、自分が生まれ合わせた「世界」が与えてくる苦難に飲み込まれそうになりながらも、戦い、真摯に生きる登場人物たちが、そう思わせたのかもしれません。

いい塩梅に角が取れ、淡々とした語り口になっていますので、『ゲド戦記』よりこちらが好きだという方の感想もわかりますね。
『ゲド戦記』も若書きというほどではなかったはずなのですが、やはり素材が見え見えで、『帰還』などは生臭くて目を背けたくなるというご意見も十分わかるという印象ではありました。(とはいえ、あの4巻がなかったら、わたくしはここまで『ゲド戦記』にはまらなかっただろうといまだに思っています。)

『パワー』の最後でガヴィアとメマーが交わす会話は、『銀河英雄伝説』でラインハルトとヤンが交わした「愚かな為政者に率いられる腐敗した民主・共和制と、賢君に率いられる清廉な専制君主制のどちらが良いか」という会話を思い出しました。(何せ軽く15年以上前に読んだのでうろおぼえですみませんが…)

この3部作は、最終作『パワー』を読み終わると、1巻の『ギフト』がまた読み返したくなるという、やめられないとまらないル=グウィンマジックあふれる作品でございます(笑)。

非常に重く(特に女性の扱いが…『ゲド戦記』のテナーみたいにぱーっと発散するタイプの女性キャラが出てこないため(笑)、読んでいて痛々しくて、もう。)、落ち込んでいるときにうっかり読むとさらに深みにはまること請け合いですので、読む時と場を選ぶ作品であることはサトクリフと同じですが、こことは違う「人間が生きている世界」へちょっと行ってみたくなっているあなたにはオススメいたします。


ところで……ル=グウィンさんの固有名詞はお世辞にもセンスがいいとは実はあまり思えなくて(すまん…)、『指輪物語』を読んでからなおさらそう思ったのですが、『指輪~』は「言語学者×語りのプロ」の強力タッグだったから勝負合ったのはしかたがないにしても、翻訳がなおさらそのちょっとイケてない感じを助長してないか? と思うことがあります。
1970年代くらいまでに出た作品はいいのですが、新しい作品でこれをやられると…。

翻訳者の責任は重いので、そこは編集者の方も考えていただきたい。と思います。

この方の翻訳も、さっぱりしていて読みやすいことは読みやすいのですが、ジュヴナイルの「おはなし」を物語る、という役割としてはどうなのでしょうか。
まあ、好みの問題もありますので。
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by n_umigame | 2009-02-09 22:01 | *le guin/earthsea* | Trackback | Comments(0)
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