『ミステリーの人間学 : 英国古典探偵小説を読む』 廣野由美子著(岩波新書) 岩波書店

探偵たちは人間心理の「謎」にどう迫ってきたか

 巧みなプロットを駆使し、読者を謎解きの世界へ導く探偵小説は、常に多くのファンを魅了し続けています。しかし、探偵小説のもうひとつの大きな魅力は、人間の内面への鋭い洞察にもあります。犯罪にいたる感情、登場人物の間で繰り広げられる心理的な駆引きなど。こうした「人間をどう描くか」という要素は、文学、小説に共通する大テーマでもあります。本書は、この「人間を描く」という視点から、ミステリー作品を読み解きます。

 本書では、ディケンズ、コリンズ、ドイル、チェスタトン、クリスティーなどの、英国を代表するミステリー作品をとりあげます。彼らは、あるいは、彼らの描いた探偵たちは、人間の内面へどう迫っていったのか。そうした視点から、これらの作家の作品を読み解き、探偵小説の系譜を辿ると、探偵小説の新たな魅力に気付かされ、さらには、文学や小説に対する理解もより深まることと思います。

 ミステリーファンの方には、ミステリー作品への新たな発見を得られることと思います。ミステリーファンでなくても、広く「文学案内」としても、とても興味深く読むことができます。ぜひご一読ください。(岩波書店HP)



紹介にもあるように、どちらかというと文学案内の性格が強いように思われました。
ですので、ミステリーをある程度読みつけている読者にとっては、特に目新しい切り口もなく、英国古典ミステリの歴史をおおざっぱに俯瞰しただけ、という印象を受けるかもしれません。

ただ、ミステリファンの書いたミステリ評論が、どうしても歴史をたどるとこの作家、文学かどうかという視点ではいわゆる本格ミステリとハードボイルド作家たちのやりとりなど、もう視点が固定化してきてしまっているのに比して、まずディケンズやコリンズに大幅な紙数を割かれているところが違います。

ホームズがなぜこんなに長い間愛されてきたか、という部分も、ホームズという探偵が冷徹で論理だけを重んずるように見えて、人間を見る透徹した目や、それが見えるからこそのホームズの人間への温情的なまなざしを、読者が感じるからだ、というところは大きくうなずきました。

何かというと「人間が描かれていない」と評されがちな本格ミステリの代表としてはクリスティをあげ、彼女の作品もいかに人間を見ているかということが説かれます。

「本格ミステリはゲームだから人間はコマで良い」という意見があることは存じておりますが、しかし、古典として生き残っている作品は決してゲームや人間が単なるコマではありえない、だからこそ世紀を越えて生き残ったのだ、ということを、改めて確信するに至りました。
その描かれ方はやはり純文学とはもちろん違う行き方をするものではありますが。

あとがきで触れられていた『ミステリーの社会学』(高橋哲雄著/中公新書 中央公論社)もたいへんおもしろい著書でした。ただ、ものすごい分量のミステリを読んでおられるうえに、あっさりばっさりネタバレをされていますので、こちらもある程度ミステリを読んだ方向けかもしれません。
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by n_umigame | 2009-06-08 22:07 | | Trackback | Comments(0)

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