*さいはての西*

fwest.exblog.jp
ブログトップ

<   2013年 02月 ( 12 )   > この月の画像一覧

『語りべのドイツ児童文学 : O・プロイスラーを読む』吉田孝夫著(奈良女子大学文学部まほろば叢書)

出版者:かもがわ出版

~目次~
1 ホッツェンプロッツをドイツ語で
2 妖怪の故郷を語る
3 ハリー・ポッターと核戦争のあいだで
4 「ぼくはクラバート」―民話と名のり
5 辺境・賤民・ソルブの伝説―『クラバート』の背景
6 ゲームとしての人生
7 語りべとして―おわりに



※O・プロイスラー著『クラバート』の結末に触れています。


帯によると「『大どろぼうホッツェンプロッツ』『クラバート』で知られるプロイスラー「民話の語りべ」名手としての魅力を、作品から探る。」となっています。

プロイスラーの研究書というのがめずらしいということもあって期待して読み始めたのですが、第1章を読み終わらないまに「こりゃあ、本の選び方を間違えたかな」と思いまして、その印象は最後まで読んでも変わりませんでした。

叢書名からわかれよ、ということだったのかもしれませんが、まず「大学の先生の講義」でした。
学生を主な仮想読者としているためか、視線が「教壇の上から」なんですよ。それもギャグが寒かったりして(ドイツ語って楽しい!の下りとか…)「こんな先生、自分の母校にもいたわ(苦笑)」という感じの。まずそれにもやもや。

次にもやもやしたのが、期待したものとの乖離です。
わたくしのプロイスラー作品との出会いは、著者の方とは逆に、子どもの頃家にあった『小さい魔女』『大どろぼうホッツェンプロッツ』ですが、いちばん好きな作品は大人になってから読んだ『クラバート』です。
この作品ははスラブ系少数民族ソルブ人の間に伝わる「クラバート伝説」が元にされており、本作中も言及されるように、クラバートを救いに来るのが母親から恋人の少女に変わっていたりするのですが、残念ながらドイツ語やスラブ系の言語の素養がないわたくしは「クラバート伝説」の一次資料に当たることができません。(カレル・チャペックのファンでもあるので始めてみたチェコ語は1ヶ月で挫折しました(笑)。愛が足りませんね。)
ですので、「クラバート伝説」の一次資料に当たり、紹介しながら、それがいかにプロイスラーの作品として昇華されていったのか、というものが読めるのかと思っていたのですが、そうではなかったのでした。

それから、第5章の「辺境・賤民・ソルブの伝説―『クラバート』の背景」…ここが本来自分が期待した内容でもあるのですが…のような部分が、あまりにもさらっと流されてしまうことに対する違和感です。
「賤民」というような言葉を使って述べるのであれば、もう少し腰を据えて語られるべきではなかったかと思います。
語弊のないように申し添えると、この言葉が差別的だから問題であるというような<言葉狩り>的な意味で申し上げているのではありません。中世ヨーロッパの伝承が背景にありますし、ドイツと周辺のスラブ系の民族、国々との歴史背景というものがあります。
それらを事実として押さえつつ、『クラバート』という文学作品を検証する上で重要なファクターだ、というご判断なくして、この章は書かれなかったと思います。
その割りには踏み込まれていない、逃げられたような気持ちになるというのが率直な感想です。

これはこの第5章だけでなく、第3章「ハリー・ポッターと核戦争のあいだで」や第6章「ゲームとしての人生」など、章タイトルはキャッチーでやや扇情的な印象すら受けるのですが、残念ながらどの章も章タイトルだけが浮いている感じです。

第4章の「「ぼくはクラバート」―民話と名のり」の部分も、そういう意味では、非常に意地悪な言い方をしてしまうと、ミステリー小説のアナグラム(綴り変え)のようで、言葉遊び以上の説得力がないように思いました。実はこの章がいちばん「逃げ」がないと申しますか(笑)、著者の自説が出ていると思うのですが、「なるほどな」と腹に落ちない。
おそらくその理由は、やはり著者の方が本気で向き合ってくださっているような気合いというか気迫を、ほかの章から感じないからでしょう。
多少飛躍や無茶があっても、本当にこの物語が好きで好きでたまらないから、結果こうなっちゃったんだな~ということが伝わってくると、読んでいる方も意地悪を言いにくいものなのです(笑)。

もう一つの決定的な(?)「もやもや」感は、これは解釈の問題なのですが、プロイスラー自身による『クラバート』の結末についての解釈を、何度も否定されているところです。
プロイスラーは少女(カントルカ)の愛がクラバートを救ったと解説しているが、それがおかしいんじゃないかと。
著者の方は、男女間の愛などという卑小なものではない、とおっしゃりたいのでしょうが、逆にわたくしは、なぜそれを一義的に「男女間の愛」の意味しかないと決めつけてプロイスラーが間違っていると言えるのかが不思議でした。

「愛」という言葉は非常に意味の広い言葉です。形而下的なものから形而上的なものまで、多様な価値観をも含む言葉だと思います。とてつもなく安っぽく響くこともあれば、崇高な側面を持つこともあるということです。
また、プロイスラーさんはドイツ語で「愛」とおっしゃったのでしょうから、訳せば「愛」という単語でも、言語が変われば包括されるニュアンスや概念が変わってくるはずです。(例えば手元の英和辞典を引くとloveの第一義はいわゆる恋愛という意味の「愛」ではありません。)
なので自分は「これは愛が主人公の少年を救う物語だ」とプロイスラーさんがおっしゃっていても(「それだけじゃないでしょう、プロイスラーさんたら☆」とは思いつつ(笑))違和感はありませんでした。
クラバートを守り、支えてきた「愛」は、カントルカの愛も含め、いわゆる恋愛感情の愛だけではないと思うからです。
百歩譲ってそれが男女間の愛だったとしても、異性に対する「愛」が恋愛感情の愛しかない、と決めつけること自体が、卑小な解釈だと思うのですが、いかがでしょうか。

大学の研究叢書ではあるものの非常に軽めで、本文は156pしかありません。最初から語れる内容は限られていると思うのですが、であるなら、もう少しアプローチの仕方、テーマの切り取り方を変えてみた方が、1冊の著書として座りが良く、読んでいる方もこんなもやもやした気持ちにならなくてもすんだかもしれないと思いました。

もとより特殊な叢書の中の一冊ということで、想定外の読者からそんなこと言われてもな…と思われる向きもあろうかと思いますが、日本にも『クラバート』やプロイスラーのファンは大勢います。
一ファンとしてフラストレーションを感じた人間もいる、という程度にご理解いただければと思います。
[PR]
by n_umigame | 2013-02-22 21:33 | Krabat/クラバート | Trackback | Comments(0)

交通系ICカードの相互利用、平成25年3月から開始


こちらのページにも記事がアップされておりますが、「平成25年3月23日から、JR西日本が発行する「ICOCA」が全国の交通系ICカードと相互利用を開始します」ということで、1ごろ月からこのようなどアップイコちゃんのポスターが駅構内に掲示されています。

d0075857_19241798.jpg


2月に入ってから電車内でも同じデザインの中吊りポスターを見かけるようになりました。

相互に利用できるようになるICカードは、以下の通り。(JR西日本のプレスリリースページより)

 「Kitaca」(北海道旅客鉄道株式会社)
 「PASMO」(株式会社パスモ)
 「Suica」(東日本旅客鉄道株式会社)
 「manaca(マナカ)」(株式会社名古屋交通開発機構および株式会社エムアイシー)
 「TOICA」(東海旅客鉄道株式会社)
 「PiTaPa」(株式会社スルッとKANSAI)
 「ICOCA」(西日本旅客鉄道株式会社)
 「はやかけん」(福岡市交通局)
 「nimoca」(株式会社ニモカ)
 「SUGOCA」(九州旅客鉄道株式会社)

何がうれしいって、PASMOエリアでICOCAが使えるようになるってことですよ。

東京の地下鉄もこれでICOCAさえあればストレスフリー、切符いらずで乗り換えできます!いやっほう!
やはり、東京や名古屋みたいに人が多いエリアで、券売機に並んで切符を買わなくちゃいけないとか、いちいち別のICカードに持ち替えないといけないとか、けっこうなストレスでしたから。

自慢じゃないですが、わたくしチャージ済みのPASMOをどこかで落とした経験(定期入れの中に入れていたのにすっこぬけた模様)があり、少なからずPASMOには苦渋を強いられた思い出があるのでなおさらですよ!(自分がうっかり者だから悪いんです)

しかし次年度の出張は少なめの予定。
これは遊びに行くしかないね!(あれ?)
[PR]
by n_umigame | 2013-02-22 21:17 | ICOCA/イコちゃん | Trackback | Comments(2)

がんばれ、DWA…!

DWAの新作がニコラス・ケイジの声の出演で制作されているというのを知り、その詳細を調べるつもりで検索をしたら、代わりにえらい記事にヒットしてしまいました。
最近TwitterのTLをまったく追い切れておらず、そのせいですっかり拾い漏れていたニュースにびっくりしました。


「不振のドリームワークス・アニメが500人規模のリストラを予定」
[映画.com ニュース] ドリームワークス・アニメーションが大規模な解雇を行う予定であると、Deadlineが報じた。

ドリームワークス・アニメーションといえば、昨年11月に全米公開した「Rise of the Guardians」の全米興行収入が1億ドルと期待外れに終わり、株価が急落。ラザードキャピタル・マーケッツのアナリスト、バートン・クロケット氏は、同社は9600万ドルの損害を被ると予測している。

これを受けて、同社と配給契約を結んだ20世紀フォックスは、11月1日に全米公開予定だった「Mr.Peabopdy And Sherman」の封切りを2014年3月7日に変更。今年の公開映画を、「The Croods」と「Turbo」の2作品のみにした。さらに、14年公開予定の「Me & My Shadow」をスケジュールから外している。

今回のリストラは最大で500人規模の解雇を予定しているといい、これが事実ならばアニメーターやテクニカル部門などアニメ製作スタッフを2200人抱えている同社にとって、思い切った決断となる。ちなみに、ドリームワークス・アニメーションは、フォーチュン誌の恒例特集「仕事をするのに最高の企業TOP100」(Best 100 companies to work for)の常連だった。
(映画.com)


"Layoffs Coming to DreamWorks Animation"(The Hollywood Reporter)


ディズニーもですか…。
「米ディズニー、映画製作部門などでレイオフ実施の可能性=関係筋」(ロイター)
こちらはレイオフの代わりに採用中止も検討されているそうですが…。

出版業界のみならず、映画産業も業績の冷え込みが取りざたされているようですが、いずこもたいへんですね。がっくし…。

この記事を読んで真っ先に思い浮かんだのは、「2015年3月にアメリカ公開が予定されいてるペンギンズの映画"The Penguins of Madagascar"はだいじょうぶなのか」ということですよ!

DWAのレイオフ関連の記事には映画PoMについて触れられているものが今のところありませんが、すでに今年(2013年)に公開予定だった作品3本のうち1本が削られて公開延期、来年以降に公開予定の作品も延期が決まっているものがあるようですので、まったく予断を許さない状況かと思われます。

2016年までに公開予定の作品が発表されたとき、「DWAはヒット作の続編か、スピンオフばかりじゃないか」という記事も見かけました。
確かに『ヒックとドラゴン』『カンフーパンダ』は続編、映画版PoMは『マダガスカル』シリーズのスピンオフですから事実なのですが、このあたりは前作や元シリーズのファンが一定数よべるという安全パイ的な意味もあるのかもしれません。
興行収入と映画の完成度、好き嫌いは関係がないのですが、作品を作っているのは人間で、人間である以上ごはんを食べなければならず、食えなければ続けていけないのが切実です。

というわけで、ペンギンズ映画をぜひとも公開にこぎつけるためにも、DVDを買って見ましょう。DWAの映画を劇場に見に行きましょう。関連本やグッズを買いましょう。
そしてDWAは、ペンギンズのDVD BOX出してください。お金出してでも買いますから!それか日本のiTSでも購入できるようにしてください。お金出してでも買いますからー!
需要があるところに商品を落としてください!(必死) (*>д<)
[PR]
by n_umigame | 2013-02-20 21:15 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)

エキサイト・ブログが画像閲覧ページをリリース

本日2013年2月20日からスタートしたサービスで、「画像閲覧ページ」がリリースされました。

ブログのTOPに「画像一覧」というテキスト・リンクが出ています。
ここから飛べるようです。

…と言っても、当ブログはとりたてて人様にお見せできるような写真ブログではなく、参考程度にしか画像をアップしていないのですが、そんなものでもよろしければお役立てください。

詳細はエキサイト・ブログの以下のページへどうぞ。

「エキサイトブログ向上委員会」
[PR]
by n_umigame | 2013-02-20 20:01 | 日々。 | Trackback | Comments(0)

『モンスターVSエイリアン』(2009)

結婚式当日、謎の隕石に直撃され、身長15メートルに巨大化してしまったスーザン。モンスターとみなされた彼女は軍により牢に監禁されてしまう。そんな折、エイリアンロボットが地球を襲撃。米国政府は彼女とモンスター集団に戦いを命じる。
(ぴあ@映画生活)


DWA作品を見るマラソン、まだまだ続行中ですよ!

往年のモンスター映画、特撮映画、SF映画のパロディてんこもりでした。
モンスター映画・特撮映画は元ネタを見たことがない作品が多かったのですが、見たことがなくても絵としては知ってる、という有名どころばかり。
パロディてんこもりはDWAのお家芸なのですが、はたして見ている方はどこまで楽しめるか。個人差が出てくる作品ではあると思います。

最初に吹き替えで見て、吹き替えの台本が楽しい(セリフに笑える)ので、それなりに楽しめたものの、平均点くらいかなあという印象で、英語版で見てみて+αという感じです。
声をあてている俳優さんたちが豪華なんですよ。
主人公のスーザン(ジャイノミカ)はリース・ウィザースプーン。(はからずも彼女の出演作を2枚同時にレンタルしてしまいました)
遺伝子組み換えトマトとドレッシングで偶然できちゃったゲル状モンスターのボブは、セス・ローゲン。
コックローチ博士にヒュー・ローリー。(声だけ聞いてるとわかりませんでした。さすが芸達者!)
W.R.モンガー将軍にキーファー・サザーランド。(同上。)
半魚人のミッシング・リンク役のウィル・アーネットも良かったです。
俳優さん、声優さんたちの演技は皆さん、さすがです。

以下、ネタバレありますので、もぐります~。





More
[PR]
by n_umigame | 2013-02-20 19:31 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)

『厭な物語』アガサ・クリスティーほか著/中村妙子ほか訳(文春文庫)文藝春秋

古今のイヤな名作短編を精選! 読後感最悪。

クリスティーやハイスミスのイヤミスからロシア現代文学の鬼才による狂気の短編まで、後味の悪さにこだわって選び抜いた名作短編集。
(出版社HP)


この本、書店に行きましたら文庫の新刊コーナーに複数冊面陳されていたのですが、横にぐちゃっとスライドして水平エグザイル状態になっており、カヴァーのお人形の青い目がこっちを複数で見ていて、手に取るのに躊躇しました…。
自然にそうなったのかわざとかわかりませんが、わざとだったとしたら、書店さん、売り方巧妙すぎです。怖すぎるだろ!

収録されている作品を書くとそれもある意味でネタバレになってしまいますので、もぐります。
読み終わった方向けの完全ネタバレですので、ご注意ください。

厭な気分を新鮮に満喫したい方は、こんなブログ記事なんぞ読んでないで、今すぐ本屋さんへゴー。
本の仕掛け(編集)から、最初から最後まで解説を含めて一気読みされることをオススメいたします。





More
[PR]
by n_umigame | 2013-02-18 21:52 | | Trackback | Comments(0)

『Black & White/ブラック&ホワイト』(2012)

CIAのトップ・エージェント、FDRとタックは堅い絆で結ばれていた。しかし、ある時ふたりが同時期にローレンという女性に出会い、彼女は出来心から“二股交際“を始めてしまった! それがきっかけで双方が“恋愛ミッション“を開始。それぞれがチームを結成し……。
(ぴあ@映画生活)


クッダラネー(いい笑顔で)。

二股かけちゃうお話なので、一歩間違えると「どこがおかしいんだよ!」みたいな展開になりそうなのですが、主演のローレン役がリース・ウィザースプーンで、この女優さんの持ち味で救われています。ローレンのお下品な悪友トリッシュ(チェルシー・ハンドラー)とのあっけらかんとしたかけあいのおもしろさとも相まって、さっぱりと笑えるコメディでした。ローレンがあまり若すぎる俳優さんでなかったのがかえって良かったんじゃないかと思います。
トリッシュは終始下品であきれてしまうのですが(笑)、「いい男を見つけるんじゃなくて、いい女でいさせてくれる男を選びなさい」というセリフは名台詞ですね。

CIAの名コンビ、FDR(クリス・パイン)とタック(トム・ハーディ)がやっていることは、最先端のテクノロジーを職権濫用しているはずなのですが、どこか幼稚で子どものケンカの域を出ておらず、このケチくささが可愛くって笑えます。
ローレンがノリノリで自宅で家事をしているところへ忍び込んで盗聴器しかけたりするシーンとか、何度か声を出して笑ってしまいました。
FDRがウソで言う経歴「大きな船の船長なんだ」は中の人が『スター・トレック』で若カーク船長を演じたこととひっかけたジョークでしょうか?(『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』にも出てたんだ…だ、誰役でしたっけ??)スタトレのときはあんまりピンときませんでしたが、確かにこの人の青い目はずるいですね(笑)。
FDRとタックのそれぞれの部下がボス思いで、そこもけっこう萌えました(笑)。

舞台がLAというところも良いと思います。
太陽が明るくて、明るい色(青い空に赤い車とか)がくっきりと引き立つ絵が美しいですし、カラっとした印象を与えるのに一役買っています。これがNYやシカゴが舞台だったら、もっと笑えない作品になっていたのではないかと。

タックは、そんな簡単により戻っちゃうのもなんなのと思わないでもないですが、こちらはこちらで、ケイティとの間に二人にしかわからないドラマがあったんだろうなあということが伺える見せ方になっていました。
結局割りを食ったのはタックの方というのが、かわいそうな気もしましたが(笑)。

あまり深く考えずに見るのにちょうどいいロマ(?)コメでした。
[PR]
by n_umigame | 2013-02-18 21:17 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)

『九尾の猫』エラリイ・クイーン著/大庭忠男訳(ハヤカワ文庫)早川書房

手当たり次第に殺人を犯し、ニューヨーク全市を恐怖にたたきこむ連続絞殺魔<猫>。その冷酷な犯行には動機もなく、目撃者もいない。唯一の証拠は、犠牲者の首に結びつけられた凶器の絹紐だけだった……父のクイーン警視をたすけ、この影なき殺人者を追うエラリイ。恐るべき連続殺人をつなぐ鎖の輪を求めて、エラリイと<猫>との息づまる頭脳戦が展開される!巨匠のエネルギッシュな大作、待望の改訳決定版。
(カヴァー裏)


翻訳家の大庭忠男氏が2012年12月26日に亡くなられました。(新聞に記事が掲載されたのは2013年1月16日夕刊でした)
追悼記事を書こうと思っていたのですが、なかなかまとまらず、考えた末に非常に個人的な感想としてのこの本の紹介という形を取らせていただくこととしました。

ですので、ミステリーとしての感想や評価を知りたいという方にはあまり役に立たない記事であることを、最初にお断りしておきます。
ネタバレがありますので、未読の方はそれもご注意ください。

d0075857_1631670.jpg



大庭忠男さんはクイーンのと言うよりは、コリン・デクスターやシドニイ・シェルダン(の超訳でない)訳者としての方が有名な方だったのではないかと思います。
わたくしはコリン・デクスターのファンでもありますが、それでも自分にとってはエラリイ・クイーンの訳者であった方です。

通常、翻訳者というのは黒子的側面が大きいためか、意味さえ取れれば良いという方、あまり気にしないという読者もいらっしゃいます。本業が作家で、翻訳「も」するという訳業をされている方以外に、翻訳者自身に興味をもつということは、一般的には少ないというのが事実ではないかと思います。わたくしもそうだったのですが、大庭忠男さんは数少ない、この人はどういう人だったんだろうという興味を持った翻訳者の方でした。
そのきっかけが『九尾の猫』の中に出てくる次の一文です。

一つ一つの死を特別のものにするのは愛だとエラリイは思った。愛だけだと言っていい。
(p.378)


このエラリイのモノローグは、以下のような前段を受けています。

「(前略)またこれが、殺人の件数がふえるにつれてここの被害者の特徴がぼやけ、ごっちゃになってしまう種類の事件だったせいもあります。終わりごろの世間の印象では、畜殺場に送りこまれた同じような九頭の牛の死体の山という感じでした。ベルゼンや、ブーヘンワルトや、アウシュビッツや、マイダネックの虐殺された死体の写真を見るのと同じ反応で、個々の区別はなく、ただの死でした」
 「クイーン君、事実の方の話は?」かすかないらだちと、別の何かがこもった声だった。そのときエラリイは、ユダヤ系ポーランド人医師と結婚したベラ・セリグマンの一人娘がトレブリンカで死んだことを突然、思い出した。
(p.378)


旧訳ではこうなっていました。

愛は死を特別なものにする……エラリーは考えた。そして、それだけの事さ。
(『九尾の猫』村崎敏郎訳、p.313)


テキスト。

Love particularizes death, Ellery thought. And little else.
("Cat of Many Tails" Pocket Books, 1959, c1949)


旧訳はなぜこんな冷笑的な訳になったのかわかりませんが(笑)、原文を見ても、前段からの流れを考えても、大庭訳の方が良いように思います。
何より、旧訳と大庭訳では、エラリイというキャラクターの印象が全然変わってしまいます。
突き放したようで冷たい印象の旧訳のエラリイと比べて、大庭訳のエラリイは、セリグマンを始め、愛する人をなくしたほかの大勢の人たちへの静かな共感が感じられます。
誤った犯人を指摘したことで、死ななくて済んだはずの人を殺してしまったと嘆くエラリイで締めくくられる本作ですので、そういう意味でも大庭訳の方が適切だと思います。
村崎訳だと、このエラリイに泣かれても嘘くさいというか(笑)今は泣いててもまた同じようなことやるんだろアンタって子は、と思ってしまいます。(国名シリーズの頃から『十日間の不思議』まで、犯人に自殺させたりしていましたしね…。あ、村崎訳はそれまでのこういうエラリイを受けたのかもしれませんね。)

また、これは訳者の方に、ユダヤ系の作家だった…つまり自身も愛する人を戦争でなくしたかもしれないエラリイ・クイーンへの共感がなければ出てこない文章だったのではないか、そう考えて、大庭忠男さんという人はどういう人だったのだろうという興味がわきました。

大庭忠男さんはクイーンより10歳ほどお年下で、1916年生まれ。極東国際軍事裁判国際検察部翻訳顧問をされたこともあったそうで、世代的にもお仕事的にも第二次大戦のさなかの方です。
唯一、『戦後、戦死者五万人のなぞをとく 1945.8.15』という翻訳書でない著書を出しておられて、これも読んでみました。

Amazonにある内容紹介を引用しますと、
「昭和二十年八月十五日、天皇がポツダム宣言を受諾して、全戦線の戦闘停止を命じたにもかかわらず、中国の華北方面では、その後約八カ月も戦闘が続けられました。そのため実に五万人もの戦死者が出ました。インパール作戦やガダルカナルの悲劇をはるかにしのぐ犠牲です。著者の兄も犠牲になった兵士の一人ですが、なぜそんな奇怪なことが起こったのか、いったいなんのために戦ったのか、そういう謎をとくのがこの本書の眼目です。」

大庭忠男さんもお兄さんをなくされています。

『九尾の猫』はミステリーとしては、現在となっては大時代的であることは否めない作品なのですが、この作品がなければこれほどエラリイ・クイーンにはまることはなかったと思います。
それも、この大庭忠男さんの訳でなければ、これほどまでにはまらなかったでしょう。

クイーンの作品としても重要な作品に違いないと思います。
国名シリーズの頃の被害者は「殺されて当然」のようないやなヤツ、ということが多かったのですが、『九尾の猫』では無辜の市民でした。
被害者一人一人の人となりや生活やその家族にまで触れて、こんなひどいことが許されていいのかと憤るクイーン警視の姿は、国名シリーズの頃には見られなかったものです。
また、巻末に、捜査に当たった警察関係者から被害者の家族まで、登場人物一人一人の名前の一覧表がついています。
「名前」だけの一覧であって、刑事だけは「刑事」という但し書きがついていますが、ミステリー小説につきものの登場人物紹介とは趣の違うものです。
発表された1949年という年を考え合わせると、作家クイーンが何を訴えたかったのか、考えてしまいました。

旧訳は古本で買ったので、前の持ち主と見られる人の感想が余白に鉛筆で記入されていたのですが、「クイーンの常としてあまりにもバカバカしい話が多すぎる」「全てを大サワギにしてしまうのである」「この『九尾の猫』にしてもあまりにもフザケすぎ、サワギすぎ」「冗長」とボロカスです。
まったくおっしゃるとおりで、否定できません(笑)。

ですが、クイーンは確かに変わろうとしていました。
それを感じます。
国名シリーズの頃のエラリイに延々と付き合わされたら、わたくしも「もういいや」となっていたと思います。
消去法で、理屈で犯人を突き詰めていくミステリーも成功を収めました。でもそこでは、本格ミステリというジャンルの性格上の制限から、キャラクターはどうしても「駒」として使い捨てにされがちでした。
でも「いつまでもこれじゃだめだ」と作家クイーンも思っていたということですよね。だから変わろうとした。
自分たちが成功したパターンにしがみつかず、新しいことに挑戦して、それが成功したかどうかは評価が分かれるにせよ(笑)、1970年代初頭まで現役であり続けた。
自分たちに成功をもたらしてくれたいわばドル箱キャラクターを、大人になって振り返って正直に「イタいよな、こいつ」と言える(笑)。
なかなかできることではないと思うのですが、いかがでしょうか。
少なくともわたくしは、愛さずにはいられませんでした。

それも危うく見捨てそうになったところを、大庭忠男さんの、この訳文の一文が、引き留めてくれました。
大庭忠男さんという訳者の方についてもですが、クイーンという作家について考えるきっかけをくれたのでした。
そういう意味で、感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。
改めて大庭忠男さんのご冥福をお祈りいたします。
[PR]
by n_umigame | 2013-02-11 18:10 | *ellery queen* | Trackback | Comments(4)

"Madly Madagascar(2013)" US盤DVD感想、後編。


前編のつづきです。


前編の注意事項をお読みの上、了解済みの方のみどうぞ。



More
[PR]
by n_umigame | 2013-02-06 01:03 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)

"Madly Madagascar(2013)" US盤DVD感想、前編。

Your favorite Madagascar pals are back in an all-new adventure! Alex's favorite holiday, Valentine's Day, brings hilarious surprises and excitement for the entire gang. Melman plans a big surprise for Gloria, Marty tries to impress a new friend and everyone wants to get their hands on King Julien's love potion. You'll fall in LOVE with Madly Madagascar!
(Amazon.com)


※2013年2月6日現在、日本未リリース/未公開です。ご注意ください。

時系列で言うと『マダガスカル2』と『3』の間のお話です。
楽しかった!笑いすぎておなか痛い。
予告を見たときは「なんだか変態くさい芸風だな」と思いましたが、本編を見て改めて思いました。
Madlyの名に恥じぬ変態くささ!恋は大騒ぎ!(満面の笑み)

例によってまとめられなかったので、前編と後編に分けました…。
つきあってやってもいいよというお暇な奇特なあなた様にだけオススメいたします。
ペンギンズに愛が偏りがちで、しかもまた長いですよー。

■あらすじ■
アフリカにバレンタイン・デーがやってきました。
折しも上空を行くセスナ機はバレンタイン商品を運んでいましたが、悪ふざけしていたパイロットたちは"Love Potion No.9"という香水瓶を機外に投げ捨てます。
ちょうどその下では、ジュリアンがめずらしく元気がありません。新大陸の王さまになるつもりだったのに領土もなく誰もあがめてくれないからですが、そこへ香水瓶が。ジュリアンはこれは天の神様のお告げだとして、King of Loveになると言い出します。
一方、主役4人組。
アレックスはバレンタイン・デーが大好きです。NYのセントラル・パーク動物園では、人気者のアレックスは、毎年ファンから浴びるようにバレンタイン・カードをもらっていたから。でもアフリカではバレンタインー・デーは知られておらず、アレックスにカードをくれる人が誰もいません。
メルマンとグロリアはカップルになって初めてのバレンタイン・デー。なのにメルマンはなぜかよそよそしくて、グロリアはやきもきしています。メルマンはグロリアのためにサプライズ・プレゼントを考えていたのですが…。
そんな大騒ぎを見て、ペンギンズの隊長はバカバカしいと言い放ちますが、彼の恋人はそうは考えていない様子。予想どおり彼女との関係はだんだん雲行きが怪しくなっていって…。
マーティはオカピの女の子に声をかけようとしますが、みんなそっくりのシマウマの群れの中では自分だけに声をかけてもらうのは難しそう。
そこへ、"Love Potion No.9"を持ってきたジュリアンがアヤシイ商売を始め、おかげで大騒動に。


以下、音声英語+英語字幕の感想です。勘違いなどあるかと思いますが、そんなものでもよろしければお入りください~。

もちろん全面的にネタバレです!



More
[PR]
by n_umigame | 2013-02-06 00:59 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)