*さいはての西*

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『ウール(WOOL)』上・下 ヒュー・ハウイー著/雨海弘美訳(角川文庫)角川書店

地下144階建てのサイロ。カフェテリアのスクリーンに映る、荒涼とした外の世界。出られるのは、レンズを磨く「清掃」の時のみ。だが、「清掃」に出た者は、生きて戻ってくることはなかった。 (出版社HP)



※ラストシーンを含むネタバレがあります。


続いて、こちらは人類の文明終焉後の世界を描くポスト・アポカリプスものです。
原書は最初Kindleで刊行され、米Amazonで驚異的な多数の高評価を獲得したことで話題になったとか。
こちらも著者のデビュー作のようです。
イントロ部分と主人公が変わるのは、この最初の短編を受けて人気があったので長編としてリライトされたのだとか。


読みやすくて確かに面白いのです。世界観も好みなのですが、映像化向きの作品のように思います。
まだ若い作家さんのはずで、21世紀に発表された作品なのに、なぜだか古い印象が残ります。また、読み終えて、YA(ヤングアダルト)作品みたいだな、と思いました。ライトノベルではなく、あくまでYAです。


「古くさい」と感じた理由は、まずはプロット、それからこの世界観でしょう。


まず世界観です。面白いのですが既視感が拭えません。
つまり、あまりSFとしての新味が感じられないのです。
「絵」としては手塚治虫先生の『火の鳥~未来編~』を彷彿とさせます。
地上は何らかの理由で汚染されて人類が生きられない世界となっており、地下にいくつもの都市を築いて細々と生活している。それが職能別の階層/階級社会になっているところは岩岡ヒサエさんの『土星マンション』の地下バージョンといった感じです。
スーツなしで地表に出れば空気中の毒性の物質でたちまち苦しんで死んでしまうというところは、『風の谷のナウシカ』の腐海のようです。
(イメージとして漫画ばかりを連想するところが、やはりこれは映像向きの作品だと思った一因かもしれません。わたくしが寡聞にして同種のSFをあまり知らないせいもあるでしょうが)

文明の遺産が断絶しているわりには、あまり旧世界からの時間の経過を感じさせないのもちょっと無理があるのかなと感じました。
これも「ナウシカ」の方が、旧世界から遙かに何世紀も経過していることが、作品世界に触れていて実感として感じることができます。


プロットは「ええ、今どき?」と思いました。
上述したように職能別の階層社会になっているのですが、最下級に置かれた機械工たちが、仲間が事実上の死刑である「清掃刑」になったことから、こんな世界はおかしいと反乱を起こします。成功すれば歴史上「革命」と呼ばれる種類の武装蜂起です。
物語の後半以降はほぼこの「革命」を描くことと、もう一方では”実は革命のシンパ”である人物が”体制側”の秘密を暴くことに費やされます。
そしてもちろん(?)革命側が勝利します。

SFやミステリーといったジャンル小説では特に、先人の遺産(アイデアやガジェット)を踏襲することは悪いことではありません。
むしろ、これはあれだけどこう来たか!という工夫が腕の見せ所みたいなところがあって、読み手もそれを期待しているところがあります。
ですので、プロットや世界観が古くさい…「どっかで見たぞこれ」となるのは全然かまわないのですが、そこにもうひと味欲しいのです。


また、読み終えて、YA(ヤングアダルト)みたいだと感じたのは、やはり登場人物でしょう。ものによってはYAの登場人物の方が複雑で食えないキャラクターいっぱいいるよ、と思ってしまいました。

善人と悪人に分かれているのですが、善人はあまりにも皆弱く、良い意味でのしたたかさが足りない。なのでどんどん死んでいきます。
では悪人は「悪役はこうでなくっちゃ!」と思わせるような往生際の悪さがない。
このハードで閉鎖的な世界でそれまで生き延びてきたのだから、皆それなりにタフさ、人間の心理の裏の裏を読むしたたかさがあったはずなのですが、年齢設定のわりにはあまりにもナイーブにすぎるという印象を受けました。
エンタテインメントなのですから、そのあたりはもっと思い切って戯画的に描いても良かったのではないかと思いました。
ただ、それがこの作品のいいところでもあって、人間の描かれ方が甘口であるがゆえに、読んでいて口当たりが良いという面もありました。


ネット上の感想を拝見していると「ジュリエットが出てきてからがおもしろい」というご意見を多数お見かけしましたが、わたくしは最初の、市長と副保安官の熟年純愛シーンにうるうるしてしまいました(笑)。何このラブコメ! だからもうひとふんばり生き延びて、新しい世界を自分たちの目で見て欲しかったです。

ラストはディストピア世界に希望を残す終わり方となっています。


この作品も三部作となるようです。
何だかんだ申しましたが、続きが出たらきっと読むと思います(笑)。
続編ではこの体言止めの翻訳文がもう少し改善されていればなと思います。ちょっとお尻が座らない感じがして気持ちが悪いところが所々引っかかりました。




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by n_umigame | 2014-03-15 19:33 | | Trackback | Comments(0)

『地上最後の刑事』ベン・H・ウィンタース著/上野元美訳(ハヤカワポケットミステリ)早川書房

〈アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞〉 小惑星衝突が迫り社会が崩壊しつつある世界で、新人刑事は地道な捜査を開始する。近未来ミステリ ファストフード店のトイレで死体で発見された男性は、未来を悲観して自殺したのだと思われた。半年後、小惑星が地球に衝突して人類は壊滅すると予測されているのだ。しかし新人刑事パレスは、死者の衣類の中で首を吊ったベルトだけが高級品だと気づき、他殺を疑う。同僚たちに呆れられながらも彼は地道な捜査をはじめる。世界はもうすぐなくなるというのに……なぜ捜査をつづけるのか? そう自らに問いつつも粛々と職務をまっとうしようとする刑事を描くアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞作! (出版社HP)



※ラストシーンを含むネタバレがあります。


人類や文明の滅亡や衰退を描く終末小説を、聖書の「黙示録(アポカリプス)」になぞらえて「アポカリプス小説」と呼ぶそうですが、この『地上最後の刑事』は半年後に小惑星が衝突するという世界、つまり終末の直前(プレ)を描くプレ・アポカリプス小説。

あと半年で地球上は壊滅的なことになることが予想されており、生きる希望を失って投げやりになったり怪しげな宗教に救いを求めたりする人が多い中、アメリカの一地方都市にあるマクドナルドで遺体が発見される。
こういうご時世だからと自殺で片付けられそうになっているところを、刑事に昇進したばかりのヘンリー・パレスは他殺を疑って捜査を開始する…。

率直なところ、ミステリ小説としてはそんなにびっくりするようなどんでん返しがあるとか、犯人が意外だとかいうことはありませんでした。
ですが警察小説のように淡々と地道に捜査を続けていく様子が心地よいこと、ヘンリーのちょっと変わった個性がなぜだか読んでいて楽しいことから、もうすぐ人類が滅亡するという陰気な世界にもかかわらず、ずっとこの世界にいたいような気持ちにさせる不思議な小説でした。

主人公のヘンリー・パレスは両親をすでに亡くしていて、それが物語の通底和音となり、物語世界のやるせなさとミステリーを盛り上げるのを静かに手伝っています。
また、ヘンリーの真摯さには偏執狂的なところがなく、淡々と、ただそうしなければならないから自分ができることをするのだ、という静かな真摯さで事件の真相に迫って行きます。

このもの悲しい世界にユーモアを交えた会話も何とも言えずマッチしていて、それが読んでいて心地よいと感じるのでしょう。


この作品は三部作の予定だそうで、最後まで読んでも解決していない問題(事件の大筋とは関係のない部分ですが)があり、ラストシーンからももしかして人類に明るい展開があるのかもしれないと思わせて終わっています。

続編の邦訳が楽しみです。




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by n_umigame | 2014-03-15 18:42 | | Trackback | Comments(0)