傲慢で美貌の愛妾ノフレトを連れて族長が帰ってきた。その日から一族のなかには反目や憎しみが。そしてノフレトが崖の小径から謎の転落死を遂げた。これで平和が戻ってくるかに思われたが――紀元前二千年のナイル河畔で起こった恐るべき惨劇! エジプトの古代都市を舞台に華麗な世界が展開する異色ミステリ。(解説 深堀骨)
(出版者HP・画像も)
BBC版「ABC殺人事件」を見終わったので、プチ・アガサ・クリスティー祭り。
次回のドラマ化は『死が最後にやってくる』と『蒼ざめた馬』がアナウンスされており、一度読んだことがある『蒼ざめた馬』の方はあとにして、未読のこちらを読みました。(クリスティーは8割くらい読みましたが、ノンシリーズものはまだ未読が残っています)
未読になっている作品は未読になっている理由がやはりそれぞれにありまして。
この『死が最後にやってくる』の場合は、『アガサ・クリスティー完全攻略』(霜月蒼著、講談社)で☆が一つだったからです。
(画像は出版者HPより)
『アガサ・クリスティー完全攻略』は「翻訳ミステリー大賞シンジケート」にて3年半にわたって連載されていた書評が本になったものです。(現在は「完全版」が早川書房から文庫で刊行)タイトルどおり、クリスティーの全邦訳作品を読破して、1冊1冊に書評をつけ、星付けでランキングもされているという、たいへんな労作です。個人的に好みや評価が合う点が多く、信用している本だったので、「この本で☆一つって、ほかには『ビッグ4』か…てことは、相当アレなんだろうな…」と思っていました。
しかし、百聞は一見にしかずというか、本の感想は本当に人それぞれと言うか、やはり本は自分で読んでみなければわからないですね。『死が最後にやってくる』が『ビッグ4』とタイというのは、いくらなんでも厳しすぎるのでは? クリスティ作品の中でも孤高の駄作…いやお茶目の極北に輝く『ビッグ4』にもちょっと申し訳ないのでは? と思いました。
クリスティーの作品は平均点が高いので、立て続けに読むと味がわからなくなるきらいがあります。ですので、間を置いて読むと評価が変わるかもしれません。(『ビッグ4』が☆一つという点については異論はありません。ありませんとも。)(弘法も筆の誤り、クリスティーにも『ビッグ4』です)
あと、巻末の深堀骨さんの爆笑解説がクリスティーの神髄を表していると言っても過言でなく(過言かも…)、この解説のためだけでも紙の本でこの本を買ってよかったと思いましたね。
物語の舞台は、二千年前くらいのエジプトで、クリスティー唯一の歴史ものと言われています。ですが、率直に申し上げて、これは「歴史もの」ではないです。クリスティーが冒頭、自分で「場所も年代も物語自体にとっては付随的なもの」と宣言していて、登場人物はどう見ても現代人で、何ならエジプトの人にも見えません。「アガサは(中略)紀元前二千年のエジプトを、ポアロやミス・マープルや退役軍人や午後のお茶が跳梁跋扈する毎度のアガサ的大英殺人帝国と何ら変るところなく描いてしまう。」という解説の一文に凝縮されています。ですので、クリスティーと言ったら「大英帝国」にうっとりしたい向きにも、実はオススメです。
また、次のBBC映像化作品に「今」選ばれた意味も、なんとなくわかる作品でもありました。
以下、ネタバレですので未読の方はご注意ください。犯人も割っています。
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