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『すべて忘れて生きていく』北大路公子著(PHP文芸文庫)PHP研究所

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小さい頃から「早くしなさい」と言われ続けた私が気がついた世の中の真実とは――。「どんな毎日にも笑えることを見つけることができる」と信じる著者による、珠玉のエッセイ集。相撲への愛が迸るロングエッセイ、日常のゆるい出来事を導入にいつの間にか本の内容に鋭く切り込んでいく油断のならない書評集、奇妙な味わいの掌編小説二編も収録した、キミコの魅力に満ち溢れた一冊! 本人も「書いたことを忘れていた」貴重な原稿が満載です。
(出版社HP・書影も)


北大路公子さんの新しい本が次々と読めて、うれしいです。

やったらだめだとわかっているのに、また「通勤中の電車の中で読む」ということをやってしまい、何かの罰ゲームみたいになってました。
はたから見たら、沿線の不審者再び。
いつも同じ車両に乗り合わせる方々には「またあいつか」で済んでいると思われますが(まだ通報されたことないし)、初めて見る人からしたら怪しいですよねえ…。そういえば最近、同じ時間の同じ車両で見かけないな、って方が何人かいるんですけど、なんでですかね。春だったからですよね。異動とかですよね。異動だよって言って。


さて、今回の本は、エッセイ集なのですが、キミコ(一方的な尊敬と愛着を込めた呼び捨て)のいつもの日常生活のひとこまだけでなく、書評と小説2本も収録されて、言うなればキミコの幕の内弁当(ただしコンビニで売ってる感じ)。
たいへんお買い得だと思います。
コンビニで売ってる幕の内だと思って侮るなかれですよ。ときどき料理人の方が監修したのとか、けっこう美味しいんですよ。また食べたいって覚えてるくらい。

書評は日本の小説が多いのですが、見開きで収まる程度の文字数でその本の良さが伝わってきて、何冊か読んでみたいなと思いました。書評や感想って、本来はこうあるべきですよね。(私は個人のブログなので、ネガティブなことも書いてしまいますが)
日本の小説はコスパが悪いので(そんな理由かい)(借りて読めよ)(でも本は買って読みたいの)あまり読まないのですが、これとこれは読みたいなーと付箋をびろびろと貼りました。


エッセイは、お相撲さんについて熱く語るおばあちゃまのお話がしみました。

 おばあさんから溢れていた、憧れやときめきや畏怖のようなものを今になって私は思い出す。(中略)誰かの愛情や「好き」を笑うことは恥ずかしいことだと、私はたぶんあの時初めて感じだのだ。(p.96)

うんうん、わかるなあ。
私もこういう場面に大人になってからも何度も、というか、日常的に出会うので、しみじみ「そうだよね、キミコ…!」とハグしたくなりました。(迷惑。)
あと、偉人伝とか読んで、ほかにこんなに立派にがんばってる人がいるから、自分はがんばらなくていいや。ってなる気持ち、めっちゃわかる。(だめじゃん。)


小説は、マジック・リアリズム的なお話でした。
これまで読んできたエッセイからもそれは感じていたのですが、どこまで現実でどこから夢か、わからないような作品も多かったですよね。
それをそのまま小説として表現されたような短編でした。
1本目の「まち」も2本目の「ともだち」もどちらもなんだか不気味なところもいいです。ホラーとかそういうお話ではないのですが、覚めない悪夢のような、境界のはっきりしないまま飲み込まれて、そこから脱出できないような気味の悪さがあります。それでいてどこか優しい感じがする。
エッセイ→書評と読んでからこの小説を読むとすんなりくる構成もよかったと思います。


「無理っす」(あとがき参照)とか言ってないで、こんな感じで、年に1冊ペースくらいで新刊が読めるとうれしいです。




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# by n_umigame | 2018-06-09 23:58 | | Trackback | Comments(0)

『孤高の警部 ジョージ・ジェントリー』が終了(本国)

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(画像はIMDbより)


いきなり私事で恐縮ですが、この3年ほど公私ともに本当にいろいろとありまして、以前楽しく見ていたドラマもすっかり追えなくなってしまっておりました。
ブログの更新もすっかり間遠になって、よほどのテンションがないと書けなくなってしまっていましたが、おかげさまで最近やっとあれもこれもまたやりたいと思うことが少しずつ増えてきました。
もういろんなことで無理だけは絶対しない、むしろやりたいことしかしない(できるだけ)と決めましたが、この調子で自分のペースを取り戻したいと思います。
まあこの間も新しい萌えやら沼やらloveやらが増えたりしていたんですけどもね、うふふ。


というわけで、ジョージ・ジェントリーが終わっとるがな(涙)。

しかも「今まさに終わりました」みたいな記事タイトルですが、1年も前に本国で放送終了してますからね(遅)。


主演のマーティン・ショウさんは今年で73歳。
刑事ドラマの主人公を務めるのも厳しいという判断もあったのでしょうが、イギリスの俳優さんたちは舞台俳優も兼任している方も多く、身体が資本だということがよくわかってらっしゃるのか、長寿で生涯現役の俳優さんも少なくありません。マーティンさんもぜひ元気で長生きなさって、またドラマでもお姿を拝見したいと思います。

さて、『孤高の警部 ジョージ・ジェントリー』、昨年(2017年)5月の本国での放送をもって、終了したようです。
8シーズン目で、最終シーズンは全2話。
1960年代のイギリスの社会問題を、刑事ドラマの体裁を取りながら、誠実に描こうとした秀逸なドラマでしたが、最終シーズンではついに1970年代に突入したようです。

2017年1月20日の記事ですが、日本でも終了のニュースが流れていました。
■英国ミステリー『孤高の警部 ジョージ・ジェントリー』がシーズン8で終了へ

■Inspector George Gently(IMDb)


シリーズ8(最終シーズン)のエピソードタイトルは、
・Gently Liberated
・Gently and the New Age
だった模様。


気になる日本での放送ですが、わたくしまたしても、見はぐっていた1話を見はぐってしまったことに気がつきました(哀号)。
何度目だ。
またAXNミステリーさんで再放送があることを祈ります。


■AXNミステリー公式
孤高の警部 ジョージ・ジェントリー



AXNミステリーのエピソードガイドが、全部「シーズン1」第○話という全シーズン通し番号でまとめられていて、何シリーズ目の何話目を見逃したのか、わかりにくいったらありゃしませんよ。(八つ当たり)

自分用のメモとして以下、全シリーズまとめました。
エピソードの日本語タイトルはAXNミステリー放送のもの、シリーズ後ろの( )内は本国での放送年。
エピソードの先頭の<>内の番号はドラマ全体の通し番号です。


Pilot (2007)/パイロット版
<1>   "Gently Go Man"/「再挑戦の始まり」

Series 1 (2008)/シリーズ1
<2> #1 "The Burning Man"/「裏切りの末路」
<3> #2 "Bomber's Moon"/「偶然が犯した罪」

Series 2 (2009)/シリーズ2
(ドラマの原タイトルはシリーズ2から"'Inspector George Gentl"に変更)
<4> #1 "Gently with the Innocents"/「沈黙は永遠に」
<5> #2 "Gently in the Night"/「奔放への報い」
<6> #3 "Gently in the Blood"/「憎しみの残影」
<7> #4 "Gently Through the Mill"/「新たなる挑戦」

Series 3 (2010)/シリーズ3
<8> #1 "Gently Evil"/「隠された正体」
<9> #2 "Peace and Love"/「混沌のキャンパス」

Series 4 (2011)/シリーズ4
<10> #1 "Gently Upside Down"/「破滅への道」
<11> #2 "Goodbye China"/「裁かれる者」

Series 5 (2012)/シリーズ5
<12> #1 "Gently Northern Soul"/「ノーザン・ソウルの夜に」
<13> #2 "Gently With Class"/「歌声の行方」
<14> #3 "The Lost Child"/「消えた子供」
<15> #4 "Gently in the Cathedral"/「ジェントリー汚職疑惑」

Series 6 (2014)/シリーズ6
<16> #1 "Gently Between The Lines"/「死の真相」★
<17> #2 "Blue for Bluebird"/「キャンプ場に潜む闇」
<18> #3 "Gently With Honour"/「ホープウッドの秘密」
<19> #4 "Gently Going Under"/「炭鉱町の闘い」

Series 7 (2015)/シリーズ7
<20> #1 "Gently with the Women"/「被害者の声」
<21> #2 "Breathe in the Air"/「巨悪への挑戦」
<22> #3 "Gently Among Friends"/「ゆがんだ友情」
<23> #4 "Son of a Gun"/「若者たちの叫び」

Series 8 (2017)/シリーズ8(ファイナル)※2018年6月2日現在日本未放送
<24> #1 "Gently Liberated"
<25> #2 "Gently and the New Age"


脚本が濃いドラマだったこともあってか、1シリーズの話数がアメリカのドラマなんかに比べると少ないですね。

わたしは★印のエピソードだけ見られていません。
シリーズ5の最後で「少年漫画の引きかよ!」と突っ込んだ覚えがあるのですが、シリーズ6で見事(?)復活を遂げたはずのジェントリーとバッカスを見られていないことになります。
人様の感想を拝見していると、バッカスいろいろいやになって警察やめるとかジェントリーと別れるとか(?)言い出してだだこねたけど、そのあとドラマが続いていることを見ると元さやに収まったんですよね。
バッカスの、口では何のかんの言っていてもguv大好きっぷりがだだ漏れで、ほほえましいことでございます。
もう惚れたって言えよ。
早く見たい。

UK盤と北米盤ではDVDも出ているのですが、日本ではそこまで人気がないせいか、ディスク化はされていない模様です。
『ブラウン神父』が日本でも一気にディスク化されるのを見ていると、日本人は社会問題を扱った刑事ドラマよりも、謎解きミステリーが好きな人が多いんだなあと思いました。わたしはどちらも好きなので、謎解きもの偏重になってしまうのは残念なのですけれども、確かに気軽に見られるのは謎解きミステリーですね。日本では疲れている人が多いのかも知れません。

シリーズ7まで放送してくれたので、最終シーズンもなるべく早めに放送してくれることをお待ちしています、AXNミステリーさま。
(AXNになってから早かったのに、これも丸1年以上待たされているのを見ると、やっぱり謎解き好きさんが多いからなんでしょうね。)

最終シリーズではバッカスは少しは大人になったでしょうか。
そんなのバッカスじゃないです。



***


ところで、エキサイトブログ様から、「わたしの好きなドラマ」「映画」で記事を書きませんかというお誘いをいただいていたというのに、それもすっかり過去の話になり、キャンペーン(だったようです)も終了しておりました。
せっかくわざわざお声がけいただいたのに、申し訳ありません。






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# by n_umigame | 2018-06-02 12:09 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(2)

『その部屋に、いる』S・L・グレイ著/奥村章子訳(ハヤカワ文庫NV)早川書房

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その部屋には、何かがいた…。強盗事件のトラウマに苦しむ夫婦は、気分転換にパリ旅行を計画する。節約のため、泊まるのは現地の住人の家だ。しかし、到着してみると、待っていたのは、どことなく不潔で陰気な部屋だった。不安をおぼえつつも、パリでの滞在を楽しもうとする二人を、やがて異変が襲う。どこかから聞こえる子供の泣き声。警告する老女―はたして二人は生きて帰ることができるのか。戦慄のホラー登場!
(Amazon.jpより・書影も)


全面的にネタバレしていますので、未読の方は回れ右でお願いします。







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# by n_umigame | 2018-05-28 00:07 | | Trackback | Comments(0)

『オリエント急行殺人事件』(2017)

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■公式サイト「オリエント急行殺人事件」

1974年にも映画化されたアガサ・クリスティの名作ミステリーをケネス・ブラナーの製作・監督・主演、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファーら豪華キャストの共演で新たに映画化。トルコ発フランス行きの寝台列車オリエント急行で、富豪ラチェットが刺殺された。教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人という目的地以外は共通点のない乗客たちと車掌をあわせた13人が、殺人事件の容疑者となってしまう。そして、この列車に乗り合わせていた世界一の探偵エルキュール・ポアロは、列車内という動く密室で起こった事件の解決に挑む。主人公の名探偵ポアロ役をブラナー、事件の被害者ラチェット役をデップ、未亡人役をファイファーが演じるほか、教授役にウィレム・デフォー、家庭教師役にデイジー・リドリー、公爵夫人役にジュディ・デンチ、宣教師役にペネロペ・クルスが配されている。
(映画.comより、画像も)


 アガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』(または『オリエント急行殺人事件』)を映画化した作品です。映画化は3度目。ほかにITV版のデヴィッド・スーシェがポワロを演じたドラマの『オリエント急行の殺人』など映像化作品があります。
 映画は1974年のシドニー・ルメット監督作品『オリエント急行殺人事件』が有名ですが、時代を現代にアレンジした『オリエント急行殺人事件 : 死の片道切符』(2001)という作品もあります。アルフレッド・モリーナがポアロ役でした。(興味のある方はレンタルしてみてくださいませ。わたしの感想はこちらになります→



 以下、2017年版の感想です。

 犯人についてのネタバレはありません。

 酷評しています。ケネス・ブラナーのファンの方やこの映画が好きな方も、ここで回れ右で願います。

アガサ・クリスティーの小説が映像化されると必ず、トリック重視ではないから、謎解き重視の大人の遊戯ではなくなっていたから、ダメだ(重すぎる、陰気だ、楽しくない)という感想が一定数出てきます。
しかし、「今」クリスティーの小説をわざわざ映像化するのなら、「今」その作品を映像化される意義を、必ず問われると思います。その結果、昔なら気にしなくてよかったことに配慮して重くなってしまったという解釈は、ぜんぜん「あり」です。
ですので、わたしがこの映画の解釈(すらしていないと思いましたが)と、この映画はnot for meだったと思ったのは、トリック重視でなくなって楽しくなかったからではない、ということだけ、最初に申し上げておきます。


以下、以上のことをご了承いただいた方のみお入りください。
パンフレットを買っていないので、細かい描写の齟齬や勘違いなどがありましたら、ご指摘ください。







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# by n_umigame | 2018-05-27 23:58 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(2)

ITV版「メグレ警視」シリーズ1~2(4話)

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■AXNミステリー公式HP
 

「Mr.ビーン」のローワン・アトキンソン主演!
「刑事フォイル」「名探偵ポワロ」「ミス・マープル」の製作陣が手がけた、ジョルジュ・シムノン原作の本格ミステリーシリーズ
看板番組「名探偵ポワロ」「ミス・マープル」「刑事フォイル」が完結し、これらの後任を担う番組としてITVが2016年に放送した最新作。初回放送時7,200,000人の視聴者かつ28.8%のシェアを獲得し、文句なしの大ヒットとなった。
「刑事フォイル」のプロデューサー、「名探偵ポワロ」「ミス・マープル」の脚本家が、日本ではファンの多い「Mr.ビーン」のローワン・アトキンソンを主演に迎え手がけた、本格ミステリーシリーズ。
(AXNミステリーより・画像もすべて)

***

あれだけ「日本で放送してほしい!」と大騒ぎしておきながら、せっかく放送していただけたのに感想をアップしないのも不義理かと思い、遅ればせながら感想をまとめておきたいと思います。

めちゃくちゃ長いので、ご用とお急ぎのない方だけ以下どうぞです。

***

キャストについてなどはこちら()の記事で一度ご紹介していますので、今回は実際に見た感想をつらつらと書かせていただきます。


***

最初から総評となりますが、「運命の修繕人」メグレを、とかくフランスとはそりが合わない因縁の仲のイギリスの人が描くとどうなるか、というところに、興味津々でした。(イケズ)
配役に関しては、先に記事にもアップしましたとおり、止め絵で見ている限りでは不安も不平もありませんでした。
原作のメグレはビッグ&ファットガイ(だけど身軽)なので、ローワン・アトキンソンの細長いシルエットとは正反対なのですが、実際に動き出しても視覚から入ってくるキャラクターのイメージでこれは飲み込めないという人はいませんでした。

ウィキペディアの当該ページによりますと、ロケはイギリスではなく、ブダペストとハンガリーで行われたそうです。
Maigret (2016 TV series)
https://en.wikipedia.org/wiki/Maigret_(2016_TV_series)

セットなどをPinterestにアップしている方がありました。
http://dominichyman.co.uk/2017/01/04/maigret/
↑ちょっと生々しい画像もあります。

https://www.pinterest.jp/location007/maigret-2016/
眺めているだけで眼福であります。

それで、だからというわけでもないのですが、全体的にあまりフランスっぽく見えなかったのだけが残念でした。
本当に細かいところなのですが、内装や衣装など、フランスを意識しているんだろうなということはわかるのですが、それがかえって、これがイギリスの人が作ったドラマだということが透けて見えてしまっているように感じてしまいました。そもそも英語で話してますしね。
キャラクターの名前だけフランス語風に発音していて(英語ならメグレの名前も「メイグレット」というように発音しそうです)、パリとか固有名詞は英語の発音ですし、原作(原文?)では「パトロン」と呼ばれているメグレが「チーフ」と呼ばれているのも、原作既読組には座りが悪かったです。
そういう細かいところの積み重ねが全体を作っているので、やはり細部も大事だなと思いました。

ローワン・アトキンソンのメグレは、決して悪くはないのですが、メグレ警視かと言われるとやはり違うかなというのが正直な感想です。
メグレは元々、個性があるんだかないんだかわからないようなキャラクターですが、あるものはあるとして受け入れる、清濁併せ呑む懐の深さがあります。ただそこにいるだけなのですが、その「ただそこにいる」存在感が頼もしいのです。
そこをローワン・アトキンソンは「無表情で受け流す」という演技でメグレを演じていて、それはそれで落ち着いた感じで良いのですが、茫洋としてつかみがたい原作のメグレというよりは、冷静沈着で有能な刑事という意味で、「打って出ている」メグレなんですね。

メグレものは何作かは早川書房から刊行されていますが、ほとんど河出書房新社から出ています。
その意味するところは、原著がいわゆる謎解きミステリーでもサスペンスでもなく、どちらかというと普通小説に近いものだからだろうと思います。

確かに、「人が殺されて、その犯人がわかる話」なのですが、人が殺されたから犯人を捜すのはメグレが警察官で、それが仕事だからです。
メグレは仕事熱心ですが、「謎」そのものに耽溺しません。
積極的に謎を解いている姿勢を読者に見せるタイプの探偵役ではありません。
場合によっては何もしていないようにさえ見えます。やがて事件は解決しますが、そこにごりごりと理屈をつけて説明するというスタイルは取りません。ですから、なぜその人物が犯人だったかとか、その犯行はその人物に物理的に可能だったのかとか、謎解きミステリーを読むつもりで読むと、消化不良になってしまいます。

メグレものは謎解きを楽しむタイプの小説ではなく、メグレという、ぬえのようなつかみどころのない、それでいて自分の人生や、身の回りの人やその有り様を、どうしようもないようなこともひっくるめて愛していることがわかる魅力的なキャラクターが、パリという街と渾然となって、見ているものを共に体験するような小説です。
わたしのようにそれがとても心地よくて、起きていることは悲惨だったり醜かったりするのに、いつまでもこのメグレのいる世界にいたいと思ってしまう人にはおすすめです。
が、謎を解くことを主眼としたこってりミステリーを味わいたいと思っていた向きには、あっさりしているうえに何を食べさせられたのかすらわからない、ということになってしまうかと思います。
ドラマは、この後者をターゲットにしたのかなと感じました。

シャーロック・ホームズとロンドン、エラリイ・クイーンとニューヨークのように、特定の都市と切り離せないタイプの探偵がいますが、メグレとパリは切り離せないものだと思います。
ローワン・アトキンソンのメグレは、このパリと半分同体化しているような感じがないように思います。ローワン・アトキンソンがどうしても典型的なイギリスの人というイメージがありますし、ほかのキャストもスタッフもイギリスの人なのだから、仕方がないと言えます。

ドラマとしてつまらないとか、クオリティが低いということでは、まったくありません。
謎解きが好きな人をターゲットにしたミステリードラマとしては、(不遜な言い方ですが)過不足なくよくできているドラマだと思いました。
でも、イギリスにはクオリティの高い謎解きミステリー小説は、たくさんあるわけです。
であるならば、なぜ、しかも今、イギリスの人がメグレものをテレビドラマにしようと思ったのか、結果成功したと言えるかと問われると、やはり疑問が残る作品かと思いました。
現在シーズン2の4話まで見ましたが、その問いには答えてもらえませんでした。

メタ的な理由、大人の事情とも言いますが、AXNミステリーの紹介にもあるように、ITVは「名探偵ポワロ」の終了を受けて、これに代わる人気定番ドラマを制作したかったようです。
「ポワロ」は、シリーズ最初の頃は1回30分番組で、ユーモアを上手に交えてた視聴しやすいドラマでした。尺が長くなり、重厚な内容も放送しだしたのはもっとあとのシリーズになってからです。
メグレは最初から長いし重いし、上述したように、イギリスの人は特に、このフランスを舞台にしたイギリス人が作った仮装フランスドラマをどういう意義をもって見ているのかという部分も疑問が残り、シリーズ3以降のロングランは厳しいのではないかと、正直感じてしまいました。
具体的には各エピソードの感想に書きましたが、ローワンさんのメグレは、原作のメグレが持っている良い意味で猥雑なところがなく、あまりにも清潔すぎます。
制作してくれたらもちろん見たいですが、もうひと味ほしいところです。

***

実際にドラマを見てからのキャラクターについて。

原作ではメグレ班のレギュラー刑事は、リュカ、ジャンヴィエ、ラポワントの3人。ほかにトランスと、<無愛想な刑事>ロニョンが登場します。
ドラマでは、一番の古株でメグレが息子のようにかわいがっているリュカは登場せず、ジャンヴィエ、ラポワント、ロニョンだけがレギュラーで登場しています。
確かに、リュカとジャンヴィエはどちらもメグレがかわいがっている部下なのですが、ややキャラがかぶるところがあり、ドラマでどちらか一人だけ採用しようとなったようですね。なぜそこでジャンヴィエを残したのかわかりませんが、リュカより名前が発音しやすいからかもしれません(笑)。
ラポワントは原作では<チビの>と訳されていますが "petit Lapointe"なので、一番年若いというほどの意味です。登場したときは新人で初々しくて、メグレの役に立とうと必死で仕事をしている様子がほんとうにかわいくてほほえましいのです。
ロニョンはメグレの部下ではなくて、モンマルトル署に所属の刑事です。まじめに仕事をしていて、気の毒な境遇の家庭なのですが、ひがみっぽい上にだらしない格好をしていることが多いため、刑事仲間からあまり好かれていません。
メグレのいるパリ警視庁(司法警察局)がシテ島のなかのオルフェーヴル河岸にあるので、単に「オルフェーヴル河岸」というとパリ警視庁を指すことがあります。日本でも警視庁のことを「桜田門」と言うような感じでしょうか。そのままずばり「オルフェーヴル河岸」というタイトルの映画がありました。(邦題『あるいは裏切りという名の犬』ジェラール・ドパリュデュー主演。一時期はやったこのハードボイルドポエムタイトル好きでした…(笑)。)フランスの警察機構についてはWikipediaなどをご覧ください。
この辺りのキャラクターは、第1話は紹介に終わった感じですね。

忘れてはならないのは、メグレ夫人の存在です。
メグレ夫婦はおしどり夫婦で、お互いのことをとても大事にしているのが伝わってくる素敵なご夫妻なのですが、ドラマは原作以上に登場シーンが多くて、うれしかったです。
演じているルーシー・コフー(Lucy Cohu)さんはやはりITVのドラマによく出てらして、『名探偵ポアロ』の「チョコレートの箱」のデリュラール夫人(冒頭で死ぬ人)、『ミス・マープル』の「ポケットにライ麦を」、ほか『トーチウッド』『ルイス警部』『ブロードチャーチ』『ミステリー・イン・パラダイス』等、日本でもおなじみのドラマに出演されている俳優さんです。わたしは『リッパー・ストリート』が一番印象に残っています。



***

以下、各話の所感です。
ネタバレになりますので、気にされる方はここで回れ右願います。








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# by n_umigame | 2018-05-26 23:33 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)

アーシュラ・K・ル=グウィンさん追悼

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2018年1月22日(現地時間)、アーシュラ・K・ル=グウィンさんが逝去されました。
88歳。ご家族のお話を記事などで伺う限り、安らかなご最期だったとのことです。

ご逝去の報を聞いてから何度か追悼記事を書こうと思ったのですが、どうしてもうまくまとまらず、立派な追悼記事は英語のものを始め、たくさんウェブ上でも読むことができますので、今さら自分がそこへ混じってもとも考えました。
ですが、そういうことではないだろうと思い直し、やはり個人的な気持ちを書き記しておくことにしました。とりとめのない、だらだらとしたものになるかと思いますが、お許しください。

それでも良いよという方のみ、以下、お入りください。





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# by n_umigame | 2018-05-06 21:43 | *le guin/earthsea* | Trackback | Comments(2)

『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』ダグラス・アダムス著/安原和見訳(河出文庫)河出書房新社

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お待たせしました! 伝説の英国コメディSF「銀河ヒッチハイク・ガイド」の故ダグラス・アダムスが遺した、もうひとつの傑作シリーズがついに邦訳。前代未聞のコミック・ミステリー。
(出版社HPより・書影も)




現在Netflixでドラマが配信されている『ダーク・ジェントリー』の原作。
こちらもまさかダグラス・アダムスの新刊が、しかもわたくしの大好きな安原和見さんの訳で読めるなんて! 幸せ。

先にドラマを少し見始めていたのですが、これがまあ何が起きているのかぜんっぜんわかりません。
それでいったん休憩して、こちらの原作が出たのを幸いに先に読み始めたのですが、これがまあ何が起きているのかぜんっぜんわかりません。半分どころか4分の3読んでも、何なら残り数十ページのところまで読んでもわかりません。

なのにおもしろいってどういうこと。

ドラマの方は早々にけっこうえぐい展開になることもあっていったん休憩したのですが(無意味なグロを延々見続けるのはつらいものが)、小説の方はグロ表現はほとんどありません。
ですが、「電動修道士」などという単語が何の説明もなく出てくるわ、ダグラス・アダムスらしく偏執的なまでにまたソファーの話が出てくるわ、浴室に馬がいるわ、それなのに最後なんかいい話になってダグラス・アダムスだわ…てなるわ、とにかく『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズや『これが見納め』(みすず書房刊)がお好きな方なら、何も言わずにレジまで本を持って行ってください。ぜったい買ってよかった…どころかこのおもしろい小説1000えん(※税別)でおつり来るの? 今どき翻訳ものの文庫めったに1000えん(※税別)で買えないのに? 詐欺?(そこは信じて)てなりますので。

ドラマの方は舞台がアメリカに変更されていましたが、原作はやっぱりと言いますか、イギリスのケンブリッジ界隈でした。
ドラマは今年の1月2日からシーズン2の配信が開始されたものの、残念ながらシーズン2で打ち切りが決まってしまったそうです。
ドラマを完走していないので何とも言えないのですが、もしかしたらやはり、ダグラス・アダムスのいかにもなブリティッシュネスは、セオリーどおりイギリスを舞台にしてドラマも制作した方が合っていたのかもしれません。

ドラマの方を見ていると、「ドクター・フー」に雰囲気が似ているなと思っていましたら、元々「ドクター・フー」の一エピソードとしてダグラス・アダムスが脚本を書いていたものだそうです。どうりで。これをぜひ「ドクター・フー」でも見てみたかったです。

この小説は「ドクター・フー」のファンの方にもぜひおすすめします。理由はあとがきで訳者の安原和見さんが推理されているのを合わせてぜひお読みいただければと思います。




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# by n_umigame | 2018-01-03 23:40 | | Trackback | Comments(0)

『雪と毒杯』エリス・ピーターズ著/猪俣美江子訳(創元推理文庫)東京創元社

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クリスマス直前のウィーンで、オペラの歌姫の最期を看取った人々。帰途にチャーター機が悪天候で北チロルの雪山に不時着してしまう。彼ら八人がたどり着いたのは、雪で外部と隔絶された小さな村のホテル。歌姫の遺産をめぐり緊張が増すなか、弁護士によって衝撃的な遺言書が読みあげられる。そしてついに事件が──。修道士カドフェル・シリーズの巨匠による、本邦初訳の傑作本格。解説=三橋暁
(出版社HPより・書影も)


映画『グレートウォール』のおかげで久しぶりに「修道士カドフェル」シリーズのことを思い出していたら(だいたい同じ時代設定)、なんとエリス・ピーターズの新刊が! 発売時に情報を取り漏らしていたのですが、おかげで真冬のシーズンに読めてかえってよかったです。
著者のエリス・ピーターズは1995年に鬼籍に入られていますので、まさか新刊が出るとは思っていませんでした。解説にくわしいのですが、「修道士カドフェル」シリーズは一度、社会思想社の現代教養文庫で全巻邦訳が出たのですが、社会思想社が倒産廃業され、その後まもなく光文社文庫から全巻再刊されたものの、現在はまた品切れになっているようです。せめてKindle等の電子書籍でいつでも読めるようにしていてほしい…。
サー・デレク・ジャコビの主演でドラマ化もされていて、ドラマも大好きだったのですが、こちらも日本盤ディスクは長年廃盤になったままのようで、本当に残念です。ヒュー・ベーリンガー役が3回も変わったからなの?(涙)

以下、ネタバレしていますので、もぐります。
明確なネタバレは避けていますが、ミステリー好きの方にはわかってしまうかもしれませんので、今からお読みになる方でネタバレされたくない方は、ここで回れ右推奨です。









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# by n_umigame | 2018-01-03 23:38 | ミステリ | Trackback | Comments(0)

年始のごあいさつ


新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。



毎年恒例、今年の抱負ですが、2018年も引き続きこれ。

「目指せ! 東京オリンピック(の年)」

で参りたい所存です。



昨年の目標を見直していたら「2017年は旅行に行きたい」とか書いていて、
これは叶いました。
しかも国内のみならず、海外へも。
うれしかったです。旅行もとても楽しかったですし。

とても自信がつきました。

で、調子こいたら、「チョーシこいてんじゃねえぞコラ」とどっかからチンピラがわいて出まして、
ちょっと面倒なことに。


今年はチンピラが出てこないように、さらに飛距離を飛ばしたいと思います。


ところで、あんた去年は8月からブログ更新してないじゃないですかっていう話ですね。

これも今年はもう少しちびちびと更新できればと思います。



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今年もイラストは、いらすとわんパグ様 よりお借りしました。→
ありがとうございます。




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# by n_umigame | 2018-01-03 23:30 | 日々。 | Trackback | Comments(0)

『ボス・ベイビー』(The Boss baby)(2017)ネタバレあり感想

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画像はIMDbより。

こちらはネタバレ「あり」感想になります。「なし」感想はこちら。→

2018年春に日本公開が予定されていますので、未見の方はこのまま回れ右でお願いいたします。

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 北米盤Blu-rayで英語音声英語字幕にて、1度だけ見た感想になります。
 ところどころ記憶違いや解釈が間違っているところなどあるかもしれませんが、おおらかな目で見てやってくださいませ。

 以下、ネタバレです。
















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# by n_umigame | 2017-08-14 23:58 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(1)