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*さいはての西*

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『あなたならどうしますか?』シャーロット・アームストロング著/白石朗ほか訳(創元推理文庫)東京創元社

どうしてこんな物語を思いつくのか見当もつかない。そんな小説はお好きですか? 本書は、絶妙の発端から異色の物語が展開する表題作のほか、間然するところのないヒッチコックふうサスペンス「笑っている場合ではない」、残酷な結末が強烈な「ミス・マーフィ」、「敵」以下、謎解きの趣向が潜むラッセル弁護士物三編など、名手の繰り出すあの手この手が驚きを誘う、珠玉の作品集。(出版社HP)


アンソニー・バウチャーに「魔女」と呼ばれたという、シャーロット・アームストロングの作品集。
初めて読みましたが、期待に違わず傑作揃いで、とてもおもしろかったです。

「魔女」と呼ばれた作家というと、シャーリイ・ジャクスンをまず思い出すのですが、シャーリイ・ジャクスンの方が毒素が強く、あとをひきます(笑)。それでもこの作品集は1作1作の質が高くて、それぞれ少しずつ趣向が違ったり、通して読んでも飽きません。
東京創元社さんはこの手の作家を見つけてくるのがうまいのか、シャーリイ・ジャクスンやカトリーヌ・アルレーなど、「ミステリー」や「サスペンス」といったカテゴリーでくくれない、そして、読後に何か刺さったままになる(笑)作品をたくさん紹介してくれていますね。

収録作品と感想は以下の通りです。一部ネタバレを含みますので、注意!

「あほうどり」
 中編。
 この作品の、オードリー・コールドウェルというキャラクターを見て(読んで)いて、張藝謀(チャン・イーモウ)監督の映画『紅夢』の中に出てくる「あの女は菩薩の顔をした蝮」というセリフを思い出しましたよひいぃぃいいぃぃ…。
たしかに、いますよね、礼儀正しいし上品な人なんだけど、なんか会ったあとイヤーな気持ちになる人って。
そして女性の方がそういう人に対して本能的に探知能力が高いというのもわかる気がします(笑)。男性に言うと「妬いてんじゃないの?」とか言われて、「そういうこと言ってるんじゃないのよ!」というのがさらにわかってもらえないというのも、なんだかわかるなー(笑)。

「敵」
 EQMM短篇コンテストで第1位を獲得したそうです。
うん、エラリイ・クイーンさんたちが好きそうかも(笑)。
アンファン・テリブルものかと思ったら…という、『死せる案山子の冒険』にも、何となくこの作品を思わせる作品が収録されていましたね。
 
「笑っている場合ではない」
 ヒッチコック劇場で放送されても不思議ではないような、バッド・エンドでした。
この女性のマッドネスぶりはちょっとフレデリック・ブラウンも思い出しましたが、ブラウンはもう少し笑えます。

「あなたならどうしますか?」
 ヒロインは”言わずに幸せになった”方に3000点。
作者の男性観が伺えるような作品でもありました。寸止め大好きなわたくしにとって、このラストはすばらしいラストシーンです。 

「オール・ザ・ウェイ・ホーム」
 これもヒッチコック劇場ふうのサスペンスでした。タイトルもいいです。

「宵の一刻」
 これは「どうやって無実を証明するか」というミステリでした。
通常のミステリとちがって有罪の証明ではなく、無実の証明となる証拠を探す、という趣向がおもしろかったです。
この作品に登場する弁護士のラッセルはシリーズキャラクターのようです。 

「生垣を隔てて」
 作者が15歳のとき、このメレディス・リーみたいな少女だったのでしょうか。
『スイート・ホーム殺人事件』みたいになるのかと思いきや、ぜんぜんでした(笑)。ラッセルが登場するシリーズはトリックもポイントになっているようです。

「ポーキングホーン氏の十の手がかり」
 本格ミステリの探偵のパロディです。
サン=テグジュペリの「論理は何でも証明する」「真実は論理では証明できない」ということばを思い出しました。ミステリの「論理」がいかに恣意的なものであるかという証明になっていますが、パロディになるくらい謎解きミステリはおもしろいのだということも、改めてわかってしまいますね。謎解きミステリが好きでないと、こういった作品は書けないと思いますし。

「ミス・マーフィ」
 読んだ直後は「?」となったのですが、あとから「もしかしてそういうことですか…?」とじわじわときいて来、「えー……」と思った作品です。
 

「死刑執行人とドライヴ」
 緊迫感とハッピーエンドへの流れがすばらしい作品です。
ハッピーエンドと言っても単にヒロインの恋人がナイト(騎士)として助けに来るわけではなく…というところが巧いです。これも作者の男性観…というか「女にとって本当にいい男とは」観が出ているなあと思った作品でした。シャーロット・アームストロングさんの好みのタイプは、総括すると、アンチ・ハーレクイン男というか(笑)。


全体的にハッピーエンドになるものが多いので、読後もなかなか気持ちが良いです。(シャーリイ・ジャクスンだったら、うっかり読む時期を間違えたらしばらく浮上できません。)
文庫で1200えんですけれども、全編はずれなしなのでお買い得だと思います。
by n_umigame | 2009-10-16 21:35 | ミステリ