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*さいはての西*

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『落照の獄 -十二国記-』 小野不由美著(「yom yom」2009年10月号)新潮社

十二国の中、北方に位置する柳国。賢君・劉王による治世が百二十余年続く法治国家だが、その首都芝草(しそう)において犠牲者総数二十三人を数える殺人事件がおきる。国民の非難の声が高くなる中、重罪人・狩獺(しゅだつ)の裁きが、国府の司刑・瑛庚(えいこう)らによって始まった──。(出版社HP)


すっっごーくお久しぶりの『十二国記』です! おもしろかった! …と言っていいのか迷う内容ですが、世界観をまったく損なうことなく、筆致の衰えを感じさせることなく、現代的な主題をもってきて自然に読ませる所はさすがです。
この調子でどんどん新作が出ればいいのにー。にー。

久しぶりに画数の多い漢字の人名や役職名の作品を読んだせいか、最初の5pくらい全然頭の中に入ってこず、数行読んでは必ず一回戻って進むというナサケナイことに…。(「待って、今の人名ね?」「待って、今のは役職名ね?」「待って、今のは○○って読むのね?」(この独特のルビの調子を思い出すのに時間が…(笑))

相変わらず、重い、暗い、そしてバッドエンドでした。

作品のテーマは死刑論。

賢君で名高かった劉王が治める法治国家・柳では死刑が廃止されてもう長かった。その首都で、幼い子どもや赤ん坊を含む23人を残虐な方法で殺した狩獺(しゅだつ)が逮捕される。
前科三犯、更正する見込みも、悔悛の色も、遺族への謝罪の意もない狩獺を、3人の法官が審理を行うのですが、物語はほとんどこの審理の場面に費やされます。

3人の法官の間でも意見が分かれ、直接遺族から話を聞いている法官は「死刑にすべきだ」と言い、別の法官は「ここで軽々に死刑を復活させたら歯止めがかからなくなるのではないか、冤罪だったらどうする」と反対。しかし「では無期懲役だったら冤罪でも良いのか。短い人生のたった1年でも無実の罪で獄中で無駄にさせられた人の気持ちは? 罪人を出したと世間から後ろ指をさされる残された家族の気持ちは?」と反駁されて言葉に詰まります。

最終的に、司刑の瑛庚(えいこう)が苦渋の判決を下すのですが、勝ち誇ったように笑う狩獺の描写に、ちっともカタルシスを味わえないラストシーンとなっております。

凶悪犯に対して「あんなヤツは排除してしまえ」と死刑を望む民衆は、結局自分が手を下すのではないから殺人である死刑を行えと言えるのだ、という指摘は鋭いと思いました。瑛庚の妻・清花はその民衆の代表として描かれていますね。

現在、先進国の中で死刑があるのは日本とアメリカだけ、それもアメリカも州によっては死刑を廃止しているので、国家ぐるみで死刑があるのは日本だけなんだそうです。
ヨーロッパの死刑のない国から日本に移り住んできた方が、子どもに「どうして戦争はいけないの?」ときかれたとき「人が人を殺すことはいけないことだ」と教えてきた。でも日本にいると、死刑があるということは、「場合によっては人が人を殺しても良い」と国家が認めていることになってしまい、子どもに何と言って「人が人を殺してはいけない」ことを知ってもらえばいいのか、むずかしい、とおっしゃっているのを何かで読みました。
なるほどなあ…と、思いました。

「狩獺の行為は許されるものではないし、情けをかける余地もなかろう。清花の怒りも民の怒りもよく分かる。狩獺を憎く思うのは私も同じだ。だが、殺刑というものは、許せないから殺してしまえという、そんな簡単なことではないのだ」


瑛庚の、しぼり出すようなセリフがしみます。

久しぶりに『十二国記』を既刊全部読みたくなってしまいましたが、全部実家だ…買い直そうかな。
by n_umigame | 2009-10-18 22:02 |