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*さいはての西*

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『邪眼は月輪に飛ぶ』 藤田和日朗著(ビッグコミックス)小学館

むかしむかし……。

座礁した米空母が東京に持ち込んだ“ミネルヴァ”。その眼で見られたものは、たとえモニター越しであっても死ぬ。死の街と化した東京に“ミネルヴァ”殲滅の命を受けた米軍特殊部隊が派遣される。その中には老マタギ・杣口鵜平とその娘で巫女の、輪の姿があった。鵜平はかつて“ミネルヴァ”を仕留めたただ一人の男であった……。(Wikipediaより)



「じゃがんは がちりんに とぶ」と読みます。

藤田さんフェア(自分内)開催中。
原稿から逃げてるだけじゃないかって? ははははははは。 はー…。

さて、(逃げとるー!!) 気を取り直して。

藤田さんの作品なので、まあいろいろと、読者の数だけ「ここがいい」「あそこがいい」というご感想があろうかと思われますが、わたくしの感想はもう、基本、いっこだけですね。

鵜平、かっこいー!!

あんた、またこんなじーさんを!? って、だってかっこいいんだもん!(なんて非論理的な感想だ)

『からくりサーカス』みたいに、ばかすかいい人が死んじゃうお話だといやだなーと思っていましたが、だいじょうぶでした。
先日読んだ『黒博物館スプリンガルド』もそうでしたが、藤田さんはやはり、青年誌で描いていても、「芯」のところは良い意味での少年マンガマインドを持ち続けてらっしゃる漫画家さんなんだなあと、改めて思いました。

例えば、”ミネルヴァ”に追われながら(おびき寄せながら)地下鉄の線路を車で走るシーンで、鵜平の猟銃は連射ができないので、マイケルから「これ使え」とオートマチックの拳銃を渡されるのですが、いかにもイヤそーに口をとがらして「ぱん、ぱん」と撃って(この緊張感のないオノマトペの表現はぜひ本作で!)、全部はずして、「拳銃は好かん」と言い放ち、マイケルに「てめえ、ホントに、名人かよ!!」とつっこまれるところなんか、大笑いしました。
まったく、なんてかわいいじーさんだ(笑)。

マイケルも「狂言回し」として、いい味出してます。

アシスタントさんたちが手を入れることを一切こばんだというクライマックスのシーンは、やはり絵的に美しいですね。

”ミネルヴァ”は、その眼が見たものは(モニターごしでも)すべて死ぬという「邪眼」を持ったフクロウで、最高の飛行速度はハヤブサが落下するときの速度(時速340km)というとんでもない鳥なのですが、鵜平の撃った弾で死んだようですので、鳥であることは間違いないようです。

ですが、なぜ、そのような鳥が生まれたのかは一切作中では語られません。
「人間が何もしていないのに起動する邪悪」を卓抜した見せ方で描くのが巧かったのはヒッチコックだ、と言ったのは内田樹さんですが、”ミネルヴァ”もまさしく、「人間が何もしていないのに起動する邪悪」です。
作中、鵜平の養女・輪が、”ミネルヴァ”とはなんだったのかと自分の考えを語るシーンがありますが、何かの象徴として描かれたことはまちがいないのでしょうね。

邪視(邪眼:evil eye)は世界の広い地域で伝わる迷信のようですが、”ミネルヴァ”の場合は呪いがかかるどころか、一発で死ぬのですから、もうどうすればという感じです。
by n_umigame | 2009-11-24 19:38 | コミックス