大都会ロンドンの一画に、エドワード王朝時代そのままのたたずまいを保つバートラム・ホテル。だが、その平和で静穏なムードの裏でも、事件の影はうごめいていたのだ。常連客の牧師が謎めいた失踪をとげ、やがて霧の夜、恐るべき殺人事件が!ホテルで休暇を過ごしていたミス・マープルが暴く、驚愕の真実とは。
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うーん、なるほどね。
原作はこういうオチの作品だったんですね。
これは、ポッと出の作家が書いてしまうと禁じ手になるのでしょうが、功なり名を遂げたクリスティーが書いた作品であるということを合わせて読まなければ、読み損なう作品であると思われます。
装置の大げさなわりにすべっている(すまん)ところは何となく『ビッグ4』を思い出しますが、『ビッグ4』と明らかに違うところは、
↓以下、ネタバレ。もぐります。
犯人が最後に罰されない(逃げおおせる)というところですね。
アガサ・クリスティーは信賞必罰の比較的はっきりしたミステリ作家だとこれまでは思っていて、メロドラマといわれようが、できるだけハッピーエンドで終わろうという努力に、皮肉ではなく、感心していました。
けれどもやはり、内心、「それ」には無理があることを感じていたのでしょう。
つまり、「名探偵」が犯人だと言えば「それが正解」で、証拠不十分でも警察に逮捕される、というミステリのお約束に対してですね。
クリスティの偉大なところは、これだけおもしろい「本格ミステリ」を生みだした作家であるにも関わらず、いわゆる「本格ミステリ」に対する批判に真摯で柔軟であることだと思っていました。
それはほかの作品で思ったことなのですが、それ以前に、特にむきになっている様子もなく、一見豪華な「イギリスの古き良き」(この「イギリスの古き良き」ですらクリスティはこの作品で、「いつまでもそれはおかしい」とはっきりミス・マープルに言わせています)ホテルを見せているだけの、雰囲気を楽しむ作品であるかのように見せかけておいて、さらりと「おかしいわよね?」という目配せをして見せるところが、改めてすごい作家だったんだなあと思いました。
とは言え、これやっていいのは、やっぱりクリスティーくらいになった作家でないととも思いますが(笑)。