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*さいはての西*

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『シャーロック』第2シーズン#3「ライヘンバッハ・ヒーロー」とりあえずにしては長い感想 

やつれたジョンがやっと口にした言葉は・・・「親友のシャーロックが死んだ」。

3か月前。シャーロックは次々と大事件を解決し、世間の注目を浴びていた。そんなある日、シャーロックに執着する犯罪者モリアーティが、ロンドンの有名施設3箇所の厳重な警備を同時に破るという前代未聞の犯罪を決行。シャーロックに挑発メールを送る一方、故意に逮捕される。モリアーティが仕掛けた最後の闘い。シャーロックの身になにが?
(NHK海外ドラマHP)


UK盤DVDを見た感想をアップしようと思いつつ、日本語放送までまとまらず来てしまいました。
日本語放送を見てもまとまらず…ですので、「とりあえず感想」です。ごめんなさい。


全面的にネタバレしていますので、ご注意ください。














今回の元ネタは『最後の事件』ですので、もちろん視聴者もシャーロック・ホームズが「落ちて死ぬ」ということは知ってはいたわけです。
しかし、PTSDを抱えて戦場から帰ってきたジョンがシャーロックと出会うことで、やっと「こちら」の世界で生きる道筋/希望を見つけたことを視聴者にこれでもかと見せておいて、そのジョンに親友が死ぬところを見せるという、たいへん残酷な衝撃的な見せ方に見終わった後、呆然としてしまいました。

最初に見終わったあとは「うわあああああああシャーロック、ジョンに謝れえええええ!!!。゚(゚´Д`゚)゜。」しか感想が出なかったのですが、冷静になってくると、こうでもしなければジョンは絶対にシャーロックが死んだことを信じないだろうと思い直しました。

2回目の視聴以降で、実際は、
①シャーロックが「その場を動くな(No, stay exactly where you are, don't move.)」「ぼくから目を離さないでいてくれ(Keep your eyes fixed on me.)」と言ったこと、
②ジョンがその頼みを忠実に守ってくれたおかげで、
a)シャーロックが地面に墜落した場所はジョンから死角になっており、
b)ジョンはシャーロックが墜落した瞬間は見ていない。
③急いで駆け寄ろうとしたところへ自転車と衝突して邪魔をされ、わずかなタイムラグがあった。
④人だかりを分けてシャーロックの脈を取ろうと手首を握ったが、すぐ引きはがされた。
⑤検視医のモリーがいる聖バーソロミュー病院に運ばれた。
⑥マイクロフトも一枚噛んでる模様。

というわけで、おそらくトリックの種明かしは仕込み済みなのだろうと思います。
思うだけで謎は解けませんが、S1E3のクリフハンガー→S2E1のつなぎが種明かし的には「そりゃないよ」みたいなあっけなさだったので(笑)、もうトリックの種明かしについてあれこれ考えるのはやめます。


今回の個人的キーポイントセリフは" I owe you."です。
日本語ではなんて訳すのかしら…と思っていましたが、「借りがある(借りは返す)」となっていましたね。
ううううーーん、やっぱり翻訳が難しいですよね。

日本語吹き替えではわかりにくかったのですが、ジョンもシャーロックに" I owe you."と言っています。
モリアーティとジョン、二人ともが、シャーロックに同じセリフを言っているというところがポイントかと思われます。
oweはもちろん一義的には「借りがある」という意味なのですが、わたくしはもっと重い、「今ある自分の存在自体があなたに負っている」という意味ではないかと思って見ていました。

ジョンは、冒頭でも述べたとおり、戦場から抜け殻のようになって帰ってきたところへ、シャーロックと出会ったことでまた「この世」で生きていく希望を見つけたのですから、明るい、正の側面でシャーロックに「owe」であることは間違いない思います。
シャーロックにとっても、ジョンの存在がそうでしょう。出会ったときからジョンはほかの誰とも違ったのですから。(アドレス帳にお兄ちゃんとジョンだけって……(ノД`))

モリアーティの方は、セリフではミステリ好きの間でよく議論が交わされている、「犯罪者が先か名探偵が先か問題」を想起しました。
犯罪者がいるから名探偵がいるのか、名探偵がいるから犯罪者がいるのか。
「僕はきみだ」というセリフからも、強い光があればこそ濃い影を落とすということの意味を考えさせられました。
まさに負の側面で、モリアーティの存在自体がシャーロックという「名探偵」に負っている。
正典ではホームズが「モリアーティを倒すためなら命も惜しくない」と言うところがありますが、モリアーティも「シャーロックを倒すためなら命も惜しくな」かった。
あのモリアーティの「ざ ま あ み ろ」という満足して死んだ笑顔が、何よりそれを物語っていますね。(しかし、アンドリュー・スコットさん…すげえ役者さんですよね…)
シャーロックとモリアーティが二律背反しながら同体であるということが浮き彫りになるクライマックスシーンでしたが、それをモリアーティは知っていた。「自分の死=シャーロックの死」であることを。

制作チームはシャーロッキアンであるだけでなく、古今のミステリを非常に良く読んでらっしゃるのではないかと思っていましたが、ここでもそう思いました。
「名探偵」の存在のいびつさ、その危うさ。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」という言葉どおり、人を殺した「名探偵」はけっこういます。
現代人のわたくしたちから見ると、それを「正義だったから」では看過できない。
これはコメンタリーで知ったのですが、制作者もそれは織り込み済みだったようで、シャーロックは自分が一歩間違えていれば、自分が「モリアーティ」になっていたことを思い知るのだと。

ですが、シャーロックはモリアーティの言ったとおり、「天使の側」にいる人間だった。
(であるなら、堕ちた天使であるモリアーティはあんなに悪魔(的)に決まっていますね…)
モリアーティがシャーロックに、「君にはジョンがいる」と言ったのも意味深だと思います。つまり自分には「ジョン」はいない。いなかったから、「モリアーティ」になったのだ、君だってぼくになっていてもおかしくなかったのにさ、と言いたかったのでしょうか。


ジョンが"I owe you"言ったのは、シャーロックのお墓に向かっての長めのセリフの中ででした。
"I was so alone, and I owe you so much."
このあと、"... one more miracle, Sherlock, for me. Don't be... dead. Would you do that just for me? Just stop it. Stop this."というところは涙なしには見られません。
シャーロックが友人たち…とりわけジョンを守るために死んだことを、ジョンはちゃんと理解してくれているんですね。
すばらしい友達です。
ハドソンさんといっしょにお墓参りに来たジョンは、最初に"I am angry."と言いますが、ジョンの怒りは当然です。

「急病人がいる」と言ってだまされてワトソンだけ引き返すのは原作通りなのですが、ドラマではハドソンさんが撃たれたという嘘になっていました。
すぐ戻ろうというジョンに、モリアーティを待っているシャーロックは「今忙しいから行けない」と言ってジョンを怒らせます。第1話でシャーロックとジョンにとってハドソンさんがどれほど大事な存在かということがわかる場面が、ここでの伏線になっています。誰かがひどい目にあっていると同情するジョンに「きみは優しすぎてこの仕事に向かない」と言っていたシャーロックが、ハドソンさんがひどい目にあっていると知って怒りの表情を見せたり、モリーをいつものように傷つけてしまい、横ではジョンが今にも何か言い出したそうに怒っているところで(笑)、素直に謝ってジョンをちょっとびっくりさせたり、S1E1からS2E3までのシャーロックを見ている視聴者には、ジョンの「君は誰よりも人間らしい人間だった。」というセリフが染み渡ります。

シリーズ3の制作も決定していて、その第一話はお約束通り『空き家の冒険』から始まるとのうわさ。
これを見るまで絶対死ねません(笑)。
by n_umigame | 2012-08-07 21:07 | 映画・海外ドラマ