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*さいはての西*

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BBC『ブラウン神父』(全10話)


神父ならではの観察眼で容疑者の心理を見抜き、奇抜なトリックを暴く!
G・K・チェスタトン原作の傑作古典ミステリーに現代的アレンジを加えて映像化
イントロダクション
斬新かつ奇想天外なトリックを考えさせたら古今東西随一とも言われ、しばしば、コナン・ドイルと並び称される、推理作家であり、評論家であり、詩人でもある、G・K・チェスタトン。
彼が生み出した「ブラウン神父」がAXNミステリーに登場!英国の小さな村で起こる難事件を天才的な推理で解決する、BBCの最新テレビシリーズ(イギリスでは2013年1月放送)にして大ヒット作!

本作は、英国BBC1の平日デイタイムに放送されたにも関わらず、240万人の視聴者および27.4%の占有率を獲得。これはデイタイム・ドラマとしてはスマッシュヒットであり、異例のヒットにより、即座にシーズン2の制作がコミットされた。

ブラウン神父は、まん丸顔に大きな帽子と、こうもり傘がトレードマーク。
どこから見ても純朴で冴えない昼行灯のようにぼんやりした存在だが、事件が起こるやいなや、長年、懺悔を聞いてきたことによって培われた人間の邪心や本質に対する深い理解と洞察力を駆使し、事件の謎を探り当てる。それだけでなく人間の心の闇を解き明かし、被害者そして容疑者の魂をも救おうとする。
そして、ブラウン神父の言葉は、視聴者/読者の魂をも救う!

主演は「ハリー・ポッター」の親友ロンのお父さん役でおなじみのマーク・ウィリアムズが愛嬌たっぷりに演じる。
(AXNミステリー)



まずは、気になったので原作がどれに当たるか調べてみました。
ドラマの感想はそのあとで述べさせていただきます。

原作はいずれも短編で、53作品。邦訳は以下の5冊に収録されています。(Wikipediaによると未収録の作品が2作残されているようです。)

『ブラウン神父の童心』
『ブラウン神父の知恵』
『ブラウン神父の不信』
『ブラウン神父の秘密』
『ブラウン神父の醜聞』

いずれも東京創元社から刊行されて、創元推理文庫に収録されています。
以上5冊はいちおう既読なのですが、トリックなどが有名なもの以外はきれいさっぱり忘れてしまっていて、おかげさまで新鮮な気持ちでドラマを楽しむことができました(笑)。


第1話「神の鉄槌」The Hammer of God…『ブラウン神父の童心』所収・邦題同じ
第2話「飛ぶ星」The Flying Stars…『ブラウン神父の童心』所収・邦題同じ
第3話「狂った形」The Wrong Shape…『ブラウン神父の童心』所収・邦題同じ
第4話「木の中の男」The Man in the Tree…同名の作品はなし
第5話「アポロの眼」The Eye of Apollo…『ブラウン神父の童心』所収・邦題同じ
第6話「キリストの花嫁」The Bride of Christ…同名の作品はなし
第7話「悪魔の塵」The Devil's Dust…同名の作品はなし
第8話「死者の顔」The Face of Death…同名の作品はなし
第9話「市長とマジシャン」The Mayor and the Magician…同名の作品はなし
第10話「青い十字架」The Blue Cross …『ブラウン神父の童心』所収・邦題同じ


『~童心』から5作品、残る5作品はG.K.チェスタトンの原作にはないタイトルのようです。
繰り返しますが、原作既読ですがきれいさっぱり忘れてしまっております。ですので、タイトルが違うけれども、これ原作のあれだ、というのはあるかと思います。


原作には改心してブラウン神父になついたフランボウがセミ・レギュラーとして登場します。
バレンタイン警部補は、原作ではイギリスの警察官ではなく、フランボウを追ってきたフランスの警察官(カナ表記もヴァランタンとなっています)でした。
ほかに特にレギュラーキャラクターと呼べるほどの登場人物は、原作には出てきません。
ドラマではプラス4人のレギュラーキャラを加えたことで、ドラマとして見やすくなっていると思います。全員わかりやすい「いい人」ではないところがいいですね。ブラウン神父が非常に慈悲深いキャラクターとして描かれていますので、そのバランスを考えたのでしょうか。

以下ドラマの感想です。
ネタバレにつきもぐります。










原作がとんち小話みたいな短編なのに比して、こちらのBBCのドラマは展開が重い作品が多いです。人間関係がけっこうどろどろしていますね。
ですが、ドラマはこれで成功していると思います。
ブラウン神父が大きすぎるのがまず気になったのですが(原作では6フィート4インチもあるフランボウとのでこぼこコンビがおもしろいのです)、マーク・ウィリアムズのブラウン神父はキュートで愛嬌があって、結果的にはいいキャスティングだったと思いました。

1950年代という時代設定にしたのは、おそらく狙いがあってのことだと思います。
AXNミステリーで放送された『孤高の警部ジョージ・ジェントリー』もなぜ1960年代という設定なのかと思いながら見始めたドラマでしたが、当時のイギリスの地方都市が抱える社会問題などが浮き彫りになっていました。
この『ブラウン神父』も、原作では1910年代から始まるはずが、1950年代に変わっているのは、当時のイギリスの田舎町…村特有の人々の無知による偏見や差別など、やはり社会問題に焦点を当てたかったというのがあるのかなと思いました。

それが特に出ていたのは、第7話「悪魔の塵」The Devil's Dust でしょう。
このエピソードは放射能がテーマになることがあって、わざわざドラマが始まる前に、視聴者への理解を求めるコメントが出ていました。(AXNミステリーのHPでも確認できます。)放射能への無知や偏見は、今現在もあまり変わるところがない部分があるなと、我が国のことを省みる機会にもなりましたが、このドラマでは人種差別についてもさりげなく触れられています。
「無知で保守的で偏見の塊の田舎の人」を代表するキャラクターとして配置されたのが、マッカーシー夫人でしょう。彼女はアイルランド系で、イギリスではマイノリティになる人でもあるのはずですが、自身がそうであるにも関わらずポーランド移民のスージーや、第7話のように、他の理解が必要な人々に対して配慮があるとは言えない言動を繰り返す人でもあります。この辺りがイギリスのドラマらしいですね。
最後の最後まで病気の原因が何かということは伏せられていましたが、最後のセリフでアスベストによる中皮腫、肺がんであるということがわかるシーンなどは巧いなあと思いました。
無知こそが偏見と差別を生むということ、そして医学の進歩、知識の広がりが人間にとって大切なことだということがわかります。

ただ、これが毎回成功していたかと言うと、第1話「神の鉄槌」The Hammer of God については疑問に感じました。
これはアリバイトリックなのですが、犯人が弟を殺す動機です。(原作では兄と翻訳されていました。イギリスのアッパーミドルの典型的な仕事であるイメージの聖職者と軍人という兄弟ですが、このあたりは兄弟順にどちらが就くという決まり事があるのでしょうか。詳しい方、ご教授ください。)
ドラマでは、殺される軍人の弟はどうやらバイセクシャルということになっていて、女たらしなのは我慢するけどゲイは勘弁ならんから殺したと言っています。
動機を変えるのは別にいいのですが、なんでそれをゲイだからということにしたのか。ITV版の『名探偵ポワロ』も一時期原作からの改変が、なぜかゲイネタで、それもだいたいゲイの人が犯人という展開になっていて、違和感がありました。
原作を変えるのが悪いと言っているのではありません。ドラマと小説は別物ですから。ですけれども、何をどう変えたかというところに、制作者の見識のようなものが見え隠れしますよね。

第10話「青い十字架」The Blue Cross は、ブラウン神父のデビュー作です。
やはり原作からかなり改変があります。
いちばん驚いたのがフランボウが「俺を許せ」「おまえが許さないから犯罪を続けるんだ」と言うような中二だったことですね。いい年こいて、こんなめんどくさい人じゃなかったはずなんだけどなあと(笑)。

あと個人的にうれしかったのが第5話「アポロの眼」The Eye of Apollo でマイケル・マローニーさんを久しぶりに見られたことです。
相変わらずいい声で安心したのですが、マローニーさんの演技のおかげでトリックが易々と見破れるという、ミステリドラマとしてどないやねんという問題点が。(彼の演技は舞台向きで、テレビで見るとやっぱりややオーバーアクションなんですよね…好きだけど。)
情けない役が似合いすぎてて、いろいろな意味で泣いた回です。
『SHERLOCK』のモリー・フーパー役でお馴染みのLouise Brealeyもエリノア役で出演されています。

それから、第6話「キリストの花嫁」The Bride of Christ に登場したシスター・ボニファスがとっても可愛かったので、ぜひシーズン2以降も登場してほしいと思いました。

「青い十字架」でブラウン神父が危ないとわかって必死で走ってきて、木にくくりつけられているのを見て無事だとわかったら憎まれ口をたたくバレンタイン警部補もステキです。「ちょっとコーヒーを飲みに行くから、机の上のものをさわるなよ」のシーンも良かったですよね。
マッカーシー夫人やフェリシア、スージーの立場の違う女性キャラクターたちの、べたべたしない友情もいい感じです。

回を追うごとにいい感じになっていくので、シーズン2以降も期待しています。
by n_umigame | 2013-10-21 17:21 | 映画・海外ドラマ