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*さいはての西*

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『ボス・ベイビー』(The Boss baby)(2017)ネタバレあり感想

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画像はIMDbより。

こちらはネタバレ「あり」感想になります。「なし」感想はこちら。→

2018年春に日本公開が予定されていますので、未見の方はこのまま回れ右でお願いいたします。

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 北米盤Blu-rayで英語音声英語字幕にて、1度だけ見た感想になります。
 ところどころ記憶違いや解釈が間違っているところなどあるかもしれませんが、おおらかな目で見てやってくださいませ。

 以下、ネタバレです。




















 はい、ほんとうにいいですか。

 了承済みの方しかいないということで、では、まいります。




 さて今作「ボス・ベイビー」ですが、見る前はネタバレなし編にも書きましたように、全幅の信頼を置く大好きなマクグラス監督の作品であるにも関わらず、期待半分不安半分でした。
 ですが結果的に、同じように不安だった「トロールズ」以上に、笑って笑ってぼろぼろ泣かされてしまいました。もう本当にお見事です。

 あらすじなどからもわかるように、この映画は、一義的には、ティムとボス・ベイビー(以下ボスとしておきます)の兄弟愛が物語の中心になっています。
 ある日突然両親の愛情を奪われた長子というところから始まるため、最初は対立しています。この映画がおもしろいところは、通例、話すことができる年頃の上の子の視点だけから言語的・視認的に描かれる部分が、弟の方が赤ちゃんなのにしゃべることができるだけでなく、長男以上に世知長けたおっさんで、この赤ちゃんの視点からも言語的・視覚的に描かれるという点です。
 この設定だけだったら、マクグラス監督の「"ガワはかわいいのに中身はおっさん"好きが大爆発したんですね(にっこり)」で終わっていたのですが、これが物語としてなくてはならぬ設定になっているのです。監督の趣味じゃなかったんだ! ってびっくりしましたね。当たり前ですね。すみませんマクグラス監督。でもちょっと監督の趣味も入ってますよね。

 予告編で見られるのは前半部分で、前半まではいつものDWA節です。スラップスティック&下ネタ&ばっちいネタも混ぜつつの、笑いを取ってくる感じです。ですが、後半のエモーショナルな追い上げが本当にすごくて。
 
 映画の設定で、赤ちゃんはmanagement向きの子とそうでない子に選別されて生まれてくることになっています。ボスはmanagement向きとして選別された子なのです。
 この設定がDWAらしくていいなと思いました。
 DWAの作品はマイノリティをとても優しい視線で見つめて描き出すものが多いのですが、今回は、原作が両親の愛情を一身に受けて育つ赤ちゃんのお話でした。それが最初はDWAらしくないなと思い、また映画の冒頭も、めずらしくアメリカのミドルクラスの両親と子どもという核家族から始まるため、どうなるんだろうと思っていました。(この映画は1960年代から1970年代くらいの設定のようです。まだ「古き良きアメリカのミドルクラス家庭」がかろうじて機能していた時代だろうと思われます)
 欠けたものがない状態では物語は始まらないからです。
 ところが、ボスは見た目は赤ちゃんなのに、家族がいないのですね。ティムの両親は自分たちの子どもだと思っていますが、中身は実は自分たちの会社の利益を守ろうとして送り込まれた産業スパイでした、という、ちょっとパラノイド的と言いますか、「トワイライト・ゾーン」的な設定なのです。(このパラノイド的な設定もマクグラス監督らしいです)
 ティムはボスに「想像すらできないよ、子ども時代がなかったなんて。誰か愛してくれる人はいなかったの?」とあっけらかんと聞くのですが、ボスは「You can't miss what you never had.(生まれてから一度もいなかった人を恋しがることはできないさ)」とさみしそうに返します。もうここでちょっと涙出てましたね。「ああっ、DWAの映画だ!!」って。何気ない場面なのですが、幸せな人が当たり前だと思っている一言が、それを持たなかった人を傷つけてしまうということがあると思います。
 ティムは根はやさしい子なので、ボスを傷つけてしまったことが子どもながらにわかったのか、その後ボスをだっこして眠ってしまいます。ティムはまだ7歳なのですが、両親にあふれんばかりに愛されている様子から、健やかな愛情は連鎖するものだということも見ていてわかります。
 その直前に読み聞かせしていたのがカニバリズムが出てくる本ってどうなんだとボスにつっこまれてて、いろいろ台無しなのですが(笑)。

 ボス・ベイビーたちはいつも飲んでいるミルクに秘密があって、これが切れるとふつうの赤ちゃんになってしまうのです。この設定も見ようによってはヤバいですよね(笑)。「マダガスカル」で麻薬でラリったときの画像だよ❤とか平気でコメンタリーされていたマクグラス監督なのでえーっとこれ以上のコメントは控えさせていただきたいと思います。
 敵にミルク(Secret Baby Formula)を奪われてしまったボスは、肝心なときに赤ちゃん化してしまい、ティムはボスを救うためにあることをするのですが、このシーンでぼろ泣き。前半の伏線怒濤の回収です。

 この映画はティムとボスのバディムービーとしても秀逸です。
 バディもののお約束どおり、最初は対立していた二人が、利害関係の一致からコンビを組まざるをえなくなり、だんだん絆を深めていい感じになったと思ったら、喧嘩して、勢いで言ってはいけないようなことも言ってしまって決裂して、仲直りして、でも最初の約束どおり、ボスは仕事が終わったらティムの家を出て行きます。コンビがいったん解消するのですね。

 そして天上かどこかにあるベイビーCo.に帰ったボスは、以前からの望みどおり、出世してあのあこがれの部屋に入ることができました。ところがこの部屋の机も椅子も高すぎて、ペンを床に落としたら拾うだけでも面倒。このシーンもうまいなあと思ったのですが、あれほどあこがれていたところは実はけっこう不便で、考えていたほどいいところではなかった、というオチが「マダガスカル」三部作にも通じます。

 そんなボスのところへティムから包みと手紙が届きます。中には、ボスがティムに「愛情は定量で、あちらにたくさん注がれたらこちらの取り分は減るようにできている」と説明するときに使ったプラスティックのカラフルなビーズ(大きいもの)がこれでもかと入っていて、それが文字どおりざーっと画面いっぱいにあふれ出ます(このシーンは絶対絶対映画館の大画面で見たい)。
 ボスはビジネスマン脳なので、愛を、お金のようにゼロサムゲームで考えていました。
 ですが、このティムから送られてきたカラフルなビーズは、今度は愛のメタファです。それが色とりどりで視覚的に美しい上に、場面に重ねられるティムの台詞がすばらしく、ティムの手紙を読んだボスの演技(アレック・ボールドウィンがすばらしいです)と、ボスの喜びに満ちあふれた様子に、クライマックスから涙が止まらない状態になってしまいました。
 このシーンはもちろんティムとボス・ベイビーの関係が中心に描かれているのですが、ボスが円グラフをがーっと回すところで、そうかこれは単に兄弟愛だけの映画だと言いたいわけじゃないんだ、と気づいて、さらにぼろ泣き。
 愛は、お金のように定量があるパイじゃない。もっと混沌としていて、そしてときには無限にあふれ、色とりどり形も様々で(=人それぞれで)、誰かが誰かに「ありったけ、僕の持っているすべて」をあげることもできるものだと。(このあたりがオバマ大統領の頃の映画だなあと思いました。そしてだからこそ、今見て欲しいとも)

 このあたりは本当にDWA作品の面目躍如で、しかもどうかと思うくらい直球にエモーショナルでロマンティックです。うわごとのように「マクグラス監督の映画だ、マクグラス監督の映画だあああ!」とつぶやきながら鼻かんでました。家で見ててよかったです。

 物語の冒頭、ボスには名前はありませんでした。けれども、彼を本当に愛する人ができたとき、彼には名前が与えられ、そして名を与えてくれた人たち(ここでは家族)の元へ生まれ直して帰ってくるのです。壮大なファンタジーの王道の物語です。

 もうここまででおなかいっぱいです、ティッシュないと見られませんという状態になっていたのですが、ラストシーンがまたとどめ。わたしは兄弟萌えの属性はないのですが、この映画にだけはやられてしまいました。ずるいでしょ、こんなの。
 しかも声がトビー・マグワイア(兄)とアレック・ボールドウィン(弟)て殺しにかかってるでしょ。
 またこの名前が、兄弟そろってイニシャルが同じになるという小憎たらしさ。どこまで狙い撃ちしてくるんですかね。すき。テッド叔父さん本とかテンプルトン兄弟本とか出るでしょこれ某所で。

 ティムの声をマイルズ・バクシが演じていて、狂言回し的にガンダルフのお人形が登場するのも、二重の意味でシャレだったのですね。マイルズ・バクシは、かつて『指輪物語』をアニメ映画化したラルフ・バクシのお孫さんで、マクグラス監督がキャリアを始めたアニメスタジオはバクシのスタジオだったそうです。そして言うまでもなく、今日のファンタジージャンルのゲームや映画やドラマに多大な影響を与えたのが『指輪物語』です。
 『指輪物語』は『ホビットの冒険』から始まる「行きて帰りし物語」ファンタジーの傑作です。

 この映画が、5年半というDWA冬の時代(自分で勝手にそう命名しました)を破って、日本公開再開第一作になることが、本当にうれしいです。
 もちろん映画館にも見に行きます。あのシーンこのシーンを映画館の大画面で見られる日が来るなんて、想像しただけで踊り出しそうです。


 以上、絶賛しましたが、実はこの作品を見てどうしても言いたいことが出てきてしまいました。
 以前から当ブログをお読みくださっている方、またTwitterなどでツイートを見てくださっている方にはうっすらおわかりかもしれませんが、この作品の評価とは別のところで、ちょっとしょっぱい話になります。
 長くなりましたので、記事を改めます。




by n_umigame | 2017-08-14 23:58 | 映画・海外ドラマ