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*さいはての西*

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『浮き草デイズ』 1 たかぎなおこ著(文藝春秋)

このところいろいろと読んだものの、全然感想を書くのが追いついていません。
しかし、ブログに感想をあげるのが義務みたいになっても読書そのものを楽しめなくなってしまって本末転倒ですので、ちびちびとマイペースでいきたいと思います。

 イラストレーターを目指して上京したものの、そうおもいどおりには仕事も来なくて、生活のために始めたアルバイトの面接さえ順調にクリアできないたかぎなおこさんの「あの頃」の日々を綴ったコミックエッセイ。

 東京で生活を始めようかというのに、あまりにも向こう見ずな飛び出しっぷり、当時24歳だったというのに大胆としか言いようがありません。(例えばこれから家を借りるのに貯金が70万円でしばらくなんとかなると安心していたり。これはまだ東京だからこの程度の出費ですんだかもしれない。関西だと初期費用にまとまったお金がかなり必要だし、更新料が毎年かかるとか厳しいところ(京都など)もありますから…)

でも、たかぎなおこさんのコミックエッセイは、読んでいて安心するというか気持ちがいいです。
温かい家族に支えられているということも読んでいてほんわかする一因でしょうが、やはり、たかぎさんのお人柄でしょうね。
これだけ向こう見ずなのに最終的に何とかなるのは、やはり、たかぎさんがきちんと生きているから、これにつきると思います。アルバイトするときの姿勢にしても、生活のためにやってはいるのだけれども、「あたしのやりたいことはほかにあるから」といいかげんな態度でバイト仕事をやるのではなくて、まじめに向き合うから「この仕事って、人をだますみたいでいやだな」とか思うわけですよね。
お金のためだと割り切っていると、どんな仕事でもカネには違いないしな、ってなると思いますので。(まあ常識的に程度差はあるにして)

このコミックエッセイを読む前に、細川貂々さんの『どーすんの?私』を読んだのですが、こちらはかなりいろいろと痛い本でした(笑)。
高校を卒業したものの、勉強もいやなら就職もしたくない、ということで、家でうだうだして、心配する親には八つ当たり。アルバイトもするものの、とにかく何かいやなことがあったら他人のせいにして、逃げの一手の毎日。そしていろいろと回り道した結果、「やっぱりわたしは絵がやりたいんじゃない?」と専門学校に入って、その後のパートナーの「ツレさん」にも出会って…という展開なのですが、正直、細川さん、まずいよ、と(笑)。
あとがきで「こんな自分よりわたしの方がましだ、とでも思ってもらえたら」と書いてらっしゃるので、さすがに今は、過去の自分を「これはまずかったこと」として蔵出しされたのだとは思いますが、本当に困っているNEETやひきこもりの人たちにとっては、あまりありがたくない本なんじゃないかな、というのが正直な感想でした。

たかぎなおこさんも細川貂々さんも、どちらも「本当に自分のやりたいことって何?」と思い悩みながら、最終的には絵を描く仕事につくのですが、2人の、人生に対する向き合い方の差がものすごく明暗があって、おもしろかったです。

ちなみに、「自分にあつらえたような仕事」なんてものは、ないです。
ということも、わたしは就職してからわかりました。
また、人が仕事を選ぶのではなく、仕事が人を選ぶということもあるんだなと。

これは働いたことのない人や、ちょっといやなことがあったから辞めてしまったという人には、なかなか理解してもらえないかもしれません。(辞めた人には辞めた先に、辞めなかった人には見えないものが見えていると思いますが。)(そして心身を損なうような職場ならば速攻で辞めた方が良いと思いますが)働いていて嫌なことに出会わないなんてことは、ふつうはありえません。もしないとしたら、本当に幸運な一握りの人か、あなたの代わりに誰かが嫌な思いをしていると考えた方が良さそうです。

もし進路を思い悩んでいる人にアドバイスできることがあるとすれば、「消去法で”これだけはいやだ”ということを消していって、残ったことをやってみる」というのもオススメですよ、ということです。
ワタクシは怠け者ですので、お金に困っていないなら働かなくてもいいんじゃない、という持論の持ち主ですが(ただし、お金のこと以外に、働かなかったことによるデメリットはあると思います)、何かやって世界とつながっておく、あるいは目を開いてきちんと見ている、というのは、大切なことだとは思います。
マスメディアのアオリを真に受けないことも、日々を送る上でけっこう重要な秘訣です。
と、思います。

なにはさておき、このエッセイ、おもしろいですよ。
たかぎなおこさんのマンガでない作品も見てみたいですね。
by n_umigame | 2008-09-02 14:56 | コミックス